事例

闘病の末、40代の若さで亡くなったXさん。遺されたご家族は、奥様のAさんと幼稚園に通うBさんのお二人です。Aさんは仕事と育児に追われる日々を送っており、ご主人の相続をどう進めるべきかと、ご相談をいただきました。相続財産は、ご自宅のマンション、預貯金、死亡退職金、死亡保険金です。ご自宅マンションはご夫婦共有で、Xさんの持ち分が多くなっています。死亡退職金や死亡保険金には、非課税枠があります。しかし今回は金額が上回り、預貯金や不動産を合わせると相続税の申告が必要と判明しました。
Xさんは遺言を遺されていなかったので、相続手続にあたり、相続人同士で遺産分割協議をしなければなりません。相続人は、AさんとBさんです。しかし、Bさんは幼稚園生。未成年では遺産分割協議という法律行為ができません。しかも、親権者である母親のAさんが法定代理人として協議すると、Aさんはご自身との一人二役となってしまいます。このような場合は、互いの利害が対立するとされ、遺産分割協議をするにあたり、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求する必要があります。

結果

家庭裁判所に対して、Aさんは実父Cさんを特別代理人の候補者としました。申し立てを行う際には、前もって遺産分割協議書(案)を添付しなければなりません。裁判所は事前に協議内容を確認したうえで、特別代理人の選任を受理します。本来、遺産分割協議は、相続人同士の合意があればで自由に決められます。しかし、原則、未成年者の法定相続分が守られる内容であることが要請されます。これは、 自分で法律行為ができない未成年者の権利を守るためです。
Aさんは、自宅マンションについては、最終的にBさんと2分の1になるよう相続する ことにしました。そして、その差額を金融資産で調整し、合計で2分の1ずつとなる 内容で協議書案を提出しました。特別代理人には、申立て通りにCさんが選任され、 無事、相続手続きが完了しました。
配偶者控除、未成年者控除の適用が可能でしたので、結果的には、相続税の納税は
ありませんでした。Xさんの相続で、Bさんには、成人になるまでの教育費として十分な財産が残されました。万が一のことを考え、家族が困らないように資産を形成した父の想いは、Bさんが大きくなるにつれて実感していくことでしょう。

ポイント

未成年の法律行為について

●未成年者の法定代理人と特別代理人
 親権者は子の財産を管理し、その財産に関する法律行為についてその子を代理します(民法824条)。従って共同相続人の中に未成年者がいる場合、親権者が未成年者の法定代理人として遺産分割協議を行うことができます。しかし、今回の事例のようなケースでは代理することができません。このような場合には、家庭裁判所に対し、その子のための特別代理人の選任の申立てを行う必要があります。特別な資格がなくても、未成年者の利益を保護するために職務を適切に行える事、未成年者との関係や利害関係の有無など考慮して、適格性が判断され、専任されます。
●成年年齢の引き下げに伴う変更
 民法が改正され、2022年4月1日から成年年齢が18歳に引き下げられます。これにより、18歳以上であれば法律行為(単独で有効な契約をする等)ができるようになります。よって、相続手続における「未成年」の扱いも変わることになります。また、相続人の中に未成年者がいるときに、相続税の一定額が控除される「未成年者控除」という制度(控除額はその未成年者が満20歳になるまでの年数×10万円)についても、2022年4月1日以降の相続では、「満18歳になるまで」と変更されます。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

こちらの記事もおすすめです