■毎日入浴させろと言う要求
 Hさん(84歳女性・要介護3)は、在宅で息子さんが介護していましたが、特別養護老人ホームに入所することになりました。息子さんは入所後すぐに施設長に面会を求め、「母は肌が弱くきれい好きなので毎日入浴させて欲しい」と申し出がありました。「入浴は週2回です」と施設長が断ると、「契約書にはそんなことは書いてない。『個別のニーズに応えます』というのは嘘なのか?」と納得してくれませんでした。
 その後も「施設長だって毎日風呂に入るだろう」「身体が不潔だとストレスになり病気になるし認知症も悪化する。そうなったらアンタ責任取るのか?」と執拗な要求が続きました。施設長はとうとう根負けしてHさんの要求を受け入れてしまいました。すると息子さんは、その後から介護職員に対して傍若無人に振る舞うようになり、暴言や暴力的な態度もエスカレートしたのです。相談員と主任が施設長に「Hさんの息子さんに厳しく言ってください」と話をしても、施設長は対応しませんでした。すると相談員と看護師と主任2名が「もうこんな施設では働けない」と退職し、市内の別の法人に移ってしまいました。

カスタマーハラスメント対策は人材確保策である

■理不尽で身勝手な要求は必ずエスカレートする

利用者一人を毎日入浴させてもそれほど業務量は増えるわけではないと考え、執拗に要求されると身勝手な要求でも受け入れてしまう事があります。問題は業務量ではなく、クレーマーの要求を受け入れたことにより、要求がさらにエスカレートして、収拾がつかなくなることなのです。暴力的・威圧的なハラスメントを生むきっかけのほとんどはちょっとしたわがままな要求を「面倒臭い」と受け入れてしまうことにあるのです。

では、このような身勝手な要求を執拗に繰り返された場合、どのように断ったら良いでしょうか?「特別扱いの要求」には次のように説明すると、相手もそれ以上要求できなくなるので覚えておくと便利です。

介護保険のサービスは介護保険制度という公的な制度で運営されているサービスなので、特定の利用者に対する過剰なサービスは利用者の公平性の観点から適切ではない。

■職員も安心するポスター掲示から

理不尽な要求やカスタマーハラスメントを抑止し、職員にもカスタマーハラスメント対策への取り組みをアピールするにはポスター掲示が効果的です。ポスターは、カスタマーハラスメント対策だけではなく、全てのハラスメントから職員を守る法人の取り組みをアピールすることが大切です。利用者家族の中には、カスタマーハラスメントが何のことが分からない人もいますから、具体的に事例をあげて説明することも重要です。
 下記のような「カスタマーハラスメントから職員を守る」という趣旨のポスターを作成し、施設の掲示板に貼り出すとよいでしょう。できれば、厚労省や自治体が作っているポスターと並べて貼ると、「役所もカスタマーハラスメント対策を推進している」とアピールできるので効果的です。

《法人作成ポスター見本と厚労省などのポスター》 

法人ポスター見本

厚労省作成

■「こんな施設では働けない」

本事例のようにカスタマーハラスメントを理由に施設を辞める職員がいますが、カスタマーハラスメントだけが辛くて辞めるのではありません。カスタマーハラスメントを放置して部下の苦痛を改善しようとしない管理者に愛想を尽かすのではないでしょうか。カスタマーハラスメント対策は人材確保対策でもあるのです。

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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