■事故件数を20%削減と言われても困る
 A特養では事故報告書を法人に提出し、毎月行われる法人のリスクマネジメント委員会で、前年対比の事故件数の増減が問題とされます。そして、毎年5月には前年度の事故防止活動成績として、前々年度の件数との比較表が配られます。今年も5月中旬の施設の会議で、施設長が昨年度の事故防止活動成績表を職員に配布しました。役所報告の事故件数が前年比で2割増え、転倒事故件数が前年比で3割も増えており、法人内の他の施設に比べて“成績が悪い!”と発言しました。
施設長は「今年度は転倒防止対策を最重点に取り組み、事故件数2割削減が目標です。事故データ分析表を確認してください」と言い、主任職員を中心にどのように取組を強化したら良いか考えるようにと指示がありました。主任職員たちは「単に件数が増えたと言うだけで評価が悪くなるのはおかしい!」と異議を唱えました。

■なぜ事故件数が増えると活動の評価が悪くなるのか?

■事故件数の集計に意味はあるのか?

現状の事故報告書では、事故件数の集計数は重要なのでしょうか。件数だけでは、防ぐべき事故と防げない事故を区別していません。防ぐべき事故が増えたのであれば、事故防止活動を改善しなければなりませんが、防ぐべき事故が減っていれば改善の必要性はそれほどありません。事故報告書を見直し、介助中の事故と自立動作中の事故を区別しなければいけません。
また、現状の事故報告ルールも見直しが必要でしょう。事故直後に事故情報の共有をするためには、「事故報告速報」を出す必要がありますし、カンファレンスもせずに再発防止策を記入しているということはありませんか?事故報告書と報告ルールの問題点を挙げてみましょう。

■事故報告書の問題点と見直しのポイント

1.防ぐべき事故と防げない事故が区分されていないと、事故件数だけの評価になっていないか? 
 ➡「介助中・見守り中・自立動作中」を区別し、事故を5段階で評価して報告する。
2.誤薬の間違え方を区分していないと防止対策の改善方法が分からない。
 ➡飲み間違いと取り違いを区分、取り違いは「薬の取り違い」と「人の取り違い」を区分する。
3.事故状況の記述不足で過失判断が正確にできないと家族対応でトラブルになる。
 ➡事故前のヒヤリハットや事故状況の推定・確定を記入し正確な過失判断を行う。
4.事故発生時対応の記述不足があると事故発生時の対応ミスによる過失が正確に判断できない。
 ➡「転倒発生時の受診判断」「救急車の要請時間」など過失判断の重要項目を記入させる。
させる

■報告ルールの問題点と見直しのポイント

1.ヒヤリハットと事故の区分が明確でないと職員によって判断が異なる。
 ➡事故報告規定を作成配布し事故の定義を明確にする。
2.事故直後に事故分析をせずに原因と再発防止策を記入していないか?
 ➡事故カンファレンスを指示して原因分析と再発防止策検討を5日以内に報告させる。
3.経過観察中の利用者への注意など事故直後の職場の情報共有や対応指示ができているか
 ➡「事故報告速報」を作り関係職員に配布し迅速に情報共有を図る
4.過失の判断が迅速にできないと家族対応でトラブルになる
 ➡事故後迅速に過失判断ができるよう「過失判断の基準」を資料を添付する。
5.原因分析が多角的にできていないと有効な対策が講じられない
 ➡厚労省統一書式に準拠して「利用者の要因」「介護職の要因」「環境の要因」に分ける

■問題点を改善すると事故報告書・報告ルールはこうなる!(主な改善点)

【改善ポイント①】
 事故を5段階で評価して記入することで過失の有無を明確に!

【改善ポイント②】
 ・介助中、見守り中、自立動作中に分けて記入し過失を判断しやすく!

【改善ポイント③】
 予見可能性を明確にするため「最近のヒヤリハットの有無」を記入する

【改善ポイント④】
 飲み間違い誤薬(服薬自立者の誤薬)と取り違い誤薬を区分して記入する 

【改善ポイント⑤】
 「事故報告規定」を作りヒヤリハットと事故の区分を明確にする

【改善ポイント⑥】
 事故後に事故カンファレンスを指示して1週間後に原因と再発防止策を報告

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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