事例

お母様Xさんのご相続について、長女のAさんがご相談にみえました。Xさんは公正証書遺言を作られていたそうで、遺産の全てはAさんが相続することになったため、手続きをサポートして欲しいとのこと。
Aさんはお兄様のBさんと2人兄妹で、お父様亡きあと、お母様と二世帯住宅で暮らしていたのはBさんでした。
当初、Xさんご夫婦は老後の面倒をみてもらうことを想定して、ご夫婦名義の土地上に、長男であるBさん夫婦との二世帯住宅を建てたそうです。しかし、実際にはBさん夫婦からの家事援助や看護などの申し出はほとんどなく、二世帯住宅であるにもかかわらず、孫にもほぼ会わせてもらえない状況だったようです。お父様のご相続では遺言書が無く、母子3人で遺産分割協議が必要となりました。結果、Bさんの強い主張で、二世帯住宅のお父様の持分である1/2をお母様が、もう1/2を実際に住んでいるBさんが相続することで、Aさんも仕方なく合意しました。
その後、Aさんはそれまで以上にお母様のところへ通い、献身的に介護を続け、看取ったそうです。

結果

生前のお母様は入退院を繰り返していましたが、病院への付き添いや退院後のお世話にBさん夫婦が参加することはなかったようです。Aさんご自身もBさんご夫婦と顔を合わせる機会が少なく、介護の協力をお願いしようとしても取り合ってもらえませんでした。そんな中、Aさんはお母様から「遺言を残してある」と伝えられていました。
そして、いざ遺言書を確認してみると、財産すべてをAさんに相続させるという内容で、遺言執行者にAさんが指定されていたのです。相続財産は二世帯住宅の持分と預貯金でした。
「お金のために面倒をみているつもりはなかったが、私に残したい、と思ってくれた母の気持ちが嬉しかった。また、折角両親が残してくれた大切なものを、兄夫婦の好きに処分されてしまうことは避けたい。不動産は兄との共有になり、今後なにかと複雑になるかもしれないが、それでも母の意思は尊重したい。」との思いから、放棄は選択せず、私共のところへご相談にいらっしゃったということでした。公正証書で遺言を残されていたので、早々にAさん名義に変更し、相続手続きは完了しました。ただ、今後Bさんが遺留分を主張してくるかもしれません。Aさんは、その際は今度こそ、きちんと話し合う決意を固めていらっしゃいました。

遺言と遺留分

遺言では、民法で定められた法定相続分にとらわれず、財産をどのようにも処分できますが、一定の相続人には、最低限受け取ることができる割合が定められており、これを遺留分といいます。

遺留分

遺留分は、被相続人の配偶者や子(直系卑属)、親(直系尊属)に認められますが、兄弟姉妹(第三順位)には認められていません。割合は、相続人が親のみの場合は3分の1、それ以外の場合は2分の1となります。
遺留分を主張するかどうかは遺留分権利者に委ねられており、権利行使をしなければ時効により消滅します。

遺留分侵害額請求権

遺留分を侵害した遺言が行われた場合でも、遺言自体は有効ですが、遺留分を侵害された者は、財産を受けた受遺者や受贈者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭を支払うことを請求することができます(遺留分侵害額請求権)。従って、事例ではBさんもXさんの「子」ですので、「Aさんにすべて」という遺言に対し、遺留分を主張することができますが、その場合でも不動産は遺言によりAさん名義に変更され、Bさんは金銭で請求できるだけとなります。また、今回のケースのように不動産を子供同士(兄弟姉妹)の共有名義とした場合、その共有者が亡くなるとその相続人に引き継がれるため、兄弟姉妹同士の共有であった不動産がいずれはいとこ同士の共有となってしまい、権利関係が複雑になるなど、様々なデメリットが生じることには注意が必要です。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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