車椅子のブレーキが緩んでいたことが原因?

S君(ショートステイ介護職員)は、半身麻痺の利用者Mさんをベッドから車椅子へ移乗しようとしていました。Mさんの上半身を抱え上げて、車椅子へ向いた時、車椅子にS君の足がぶつかり車椅子が後ろに動いてしまいました。ブレーキは掛けていましたが、ブレーキが緩んでいたようでした。仕方なくそのまま車椅子に乗せようとしましたが、今度はMさんのお尻が車椅子のアームレストに当たってしまいました。車椅子はまた後ろに動きます。S君はそのままMさんを車椅子に乗せようとしましたが、Mさんの身体はS君の腕からズルズルと抜け落ちて、身体が斜めになり転倒してしまいました。Mさんは転倒した拍子に車椅子のフットレストに顔をぶつけたため、目頭を切って出血し、救急搬送する事態になってしまいました。S君は事故報告書の原因と再発防止策の欄に、「事故原因:車椅子のブレーキが緩んでいたこと」「再発防止策:移乗介助を行う前に車椅子のブレーキを確認すること」と書きました。ところが、翌月他の職員が移乗介助中にブレーキの緩みが原因で、同様の転倒事故を起こしました。

直接原因の背後に隠れている本当の原因を見つけよう

手入れをしなければ車椅子のブレーキは緩んでしまう

この事故の目に見える直接の原因は、車椅子のブレーキが緩んでいたことであり、車椅子のブレーキを確認しなかったことかもしれません。しかし、なぜ車椅子のブレーキは緩んでいたのでしょうか?
車椅子のブレーキは点検をして手入れ(メンテナンス)をしなければ、いつか緩むものです。用具や設備は定期的に点検して不具合を見つけて直さなければ、危険な状態になるものといえるでしょう。
つまり、この事故の本当の原因は「車椅子のブレーキの点検を怠っていたこと」なのです。このように、目に見える直接の原因の背後に隠れている原因を見つける分析方法を、「なぜなぜ分析」と言います。なぜ直接原因が起きたのか、原因のそのまた原因を分析する手法で、建設業や製造業の事故分析などで広く使われています。

原因の原因のそのまた原因まで

なぜなぜ分析は1回では終わりません。直接原因の背後にある隠れた原因を分析し、またその背後にある隠れた原因のそのまた原因を分析します。本事例では、直接原因は「ブレーキが緩んでいたこと」であり、背後にある隠れた原因は「ブレーキの点検を怠っていたこと」でした。では、なぜブレーキの点検を怠っていたのでしょうか?それは、施設に車椅子の点検ルールが無かったからではないでしょうか?「車椅子一斉点検日(点検週間)」など、一斉に点検するルールを作らなければ、日常業務の中ではなかなか点検はできません。このように、直接原因だけでなく背後にある隠れた原因を見つけることで、効果的な再発防止策につながります。

 

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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