事例

「母が亡くなり、その日のうちに父が亡くなって」とAさんからご相談をいただきました。Aさんのお母様X様が長い闘病生活の結果亡くなり、病院から家に戻ってきたその晩にお父様のYさんが亡くなられたのです。ご両親二人ともを同日に亡くし、大変な心労であったと思われますが、Aさんは二人姉妹の姉として、気丈に対応されていました。

結果

闘病生活を送っていたお母様は自筆で書いた遺言書を遺されていました。封がしてあるためAさんにも内容は分かりませんが、遺言の存在は前もって告げられていたようです。Aさんによると、お母様は再婚で、前夫との間に子供がいるとのこと。Aさんは会ったことがないそうですが、母は密かにやりとりをして気にかけていたと思うということでした。

戸籍を取得して相続人を確定した結果、前夫との間のお子様CさんとDさんがいらっしゃることが分かりました。自筆で書かれた遺言書の場合、家庭裁判所での検認手続が必要となり、その際には各相続人に裁判所から通知がいきます。そこで、AさんはCさんDさんに対して前もってお手紙を出されました。突然の裁判所からの通知でCさんDさんを驚かせてはならないという配慮です。その内容は、お母様の晩年の様子、闘病生活を伝えるとともに、お母様はずっとCさんDさんを気にかけていたなど、CさんDさんのお気持ちに配慮した内容でした。

Aさんからのお手紙に対し、早速、Cさんからお返事がありました。母を最期まで看てくれたことに感謝するとともに、検認には立ち会えないが、仮に遺言書で何も財産がもらえなかったとしてもCさんもDさんも構わないという内容でした。家庭裁判所で検認が行われました。

遺言の内容は、お母様の財産はAさんと妹Bさんに相続させるというもので、CさんDさんには何も相続させないが理解してほしいというものでした。Aさんは遺言書の内容をCさんDさんに伝え、お母様の遺志を尊重していただくことに感謝の気持ちを伝えました。

遺言書で何も相続させないとあっても、遺留分の請求は可能です。遺留分とは、一定の相続人がもらうことができる最低限の額として民法により定められているものです。CさんDさんはお母様の子として、遺留分を主張することはできます。今回のAさんの同じ兄弟姉妹に対する心のこもった対応が、感情的な対立を避け、故人の遺志通りの実現となりました。一方、お父様の相続については、不動産もあり金融資産も多岐にわたりましたが、お父様は遺言を遺されていなかったので、AさんBさんで遺産分割協議を行い相続することとなりました。

ポイント

遺留分について

遺言では、民法で定められた法定相続分にとらわれず、財産をどのようにも処分できますが、一定の相続人には、最低限受け取ることができる割合が民法により定められています。これを遺留分といいます。遺留分は、被相続人の配偶者や子(第1順位:直系卑属)、親(第2順位:直系尊属)に認められますが、兄弟姉妹(第三順位)には認められていません。遺留分の割合は、相続人が配偶者や子の場合は2分の1、親の場合は3分の1となります。遺留分を侵害した遺言が行われた場合でも、遺言自体は有効ですが、遺留分を侵害された者は、遺留分を侵害する遺贈を受けた者に対し、遺留分侵害した相続分を返せと請求することができます。
この遺留分を返せという主張は、遺留分権利者が相続の開始及び減殺すべき贈与または遺贈があったことを知った時から1年間行使をしないときは時効により消滅し、相続の開始の時から10年経過した時も同じく消滅します。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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