事例

XさんYさんご夫婦には子供がいません。奥様のYさんは認知症を患い、施設で暮らしており、Xさんはほぼ毎日、自宅と施設を往復し、Yさんのお世話をしていました。そんな中、Xさんが急死されました。

Xさんの相続人は、奥様のY様と、Xさんの妹のZさんのお二人でしたがZさんが家庭裁判所で相続放棄の申述をしたため、Yさんが唯一の相続人となりました。しかし、YさんはXさんが亡くなったことすら認識できない状態です。そこで、Yさんの代わりに動かれたのが、Yさんの弟Aさんでした。

Aさんは相続の手続きを進めようと色々なところへ相談に行かれましたが、AさんはXさんの相続人ではない為、どこに行っても門前払いです。Yさんが入居する施設への支払や医療費を支払わなければならないにもかかわらず、Xさんの相続手続が進まなければ、Aさんが立て替えなければなりません。空き家となった自宅の管理の問題もあります。また、Xさんは多くの財産を残されていたので、相続税の申告と納税もする必要もありました。Aさんは途方に暮れながら、やっとの思いでセンターに相談に来られました。

結果

まずYさんの成年後見人選任をAさんが申立てる手続きを進めました。Yさんに成年後見人が選任されれば、Xさんの相続手続だけに限らず、相続手続が終わった後も、Yさんの財産や相続することになる不動産の管理も後見人がしてくれることになります。また、それまでAさんがYさんの代わりに立て替えてきた費用は、後見人申立てにかかる費用を除き、後見人に清算してもらえます。

さっそく申立てを行い、後見人が選任されました。相続税の申告期限は「自己のために相続が開始されたことを知った日の翌日から10か月」という期限がありますが、YさんはXさんが亡くなられたことを知ることができないため、成年後見人が選任された日の翌日から10か月ということになります。

後見人が選ばれるまでの間に色々と準備ができていたお陰で、申告も遅滞することなく完了することができました。また、Aさんがそれまでに支払っていた費用についても、後見人に請求し、Aさんのもとにお金が返ってきました。相続の手続きが無事終わったこと、今後のYさんの財産について成年後見人に管理してもらえることで、Aさんはやっと安心されたようでした。

ポイント

認知症の相続人と成年後見人

認知症や知的障害等の精神上の障害があるため、常に自己の行為についての判断能力を欠く状況にある者について、配偶者や四親等内の親族等は、家庭裁判所に対して後見開始の審判を求めることできます。後見が開始されると、成年後見人が、被後見人の財産を管理し、財産に関する法律行為について被後見人を代表します。相続に関して財産を取得する行為も成年後見人が行うこととなります。

相続税申告の起算日

相続税は、自己の為に相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に申告納税をしなければならないとされており、死亡の日が起算日ではありません。従って相続人毎に申告期限が違うということも生じます。相続人が認知症等で判断能力に欠け、亡くなったことを把握することをできない場合、相続手続の為に、まずは後見開始の審判を家庭裁判所に求め、成年後見人を選任してもらわなければなりません。成年後見人が相続開始を知った日の翌日が相続税申告の起算日となりますので、新たに選任された場合は、その選任された日の翌日が起算日となります

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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