■えん下機能障害は無く食事自立の利用者だが・・・
 93歳のグループホームの利用者Hさんは、えん下機能の障害は無く食事が自立の利用者です。ただ時折、手づかみでたくさんの食べ物を口に入れるなど、食べ方が問題になることがあります。
 ある時、他の利用者の食事介助をしていた職員が、振り返ると、Hさんの上半身が前屈して動きがないことに気が付きました。前掛けに食べ物がたくさんこぼれています。近づいて肩を揺らすと首に力が入らない状態で、唇が紫色になっています。介護職員は誤えんと判断し、ハイムリックを行い看護師を呼びました。看護師はすぐに吸引を施行しましたが呼吸は回復せず、発生から10分後に救急搬送しました。
 その後、Hさんは病院で亡くなり、施設長は「えん下機能は正常で普通食であったので、事故の危険は予測できなかった。事故は偶発的で施設に過失は無かった」と説明しました。しかし、家族は「以前からたくさんの料理をいっぺんに口に詰め込むトラブルがあった。注意していれば防げたはずだ」と、施設の過失を主張します。その後も施設と家族の主張は変わらず、家族は弁護士に相談して訴訟を起こすことになりました。

誤えん事故の過失判断のポイントとは?

■誤えん防止対策はたくさんあるが・・・

誤えん事故防止マニュアルを見ると、誤えん事故防止のための対策がたくさん載っています。「覚醒の確認」「口腔内を潤す」「食事に適した姿勢の確認」「少量をゆっくり口に運ぶ」など、大変多くの安全配慮が必要になります。 
では、どの対策を怠ると事故が起きた時に過失と判断されるのでしょうか?誤えん防止のための細かい対策も大切なのですが、どれか一つ怠ればすぐ過失になる訳ではありません。私たちは誤えん防止のために不可欠な対策は次の4点と考えています。

  1. えん下機能障害など誤えんのリスクを的確に把握していたか?
  2. えん下機能に即した適切な食事形態で提供しているか?
  3. 早食い、詰め込みなどの認知症利用者の誤えんリスクに配慮しているか?
  4. 覚醒の確認などの適切な食事介助を行っているか?

誤えん発生時の対応ミスは無いか

次に不可抗力の誤えん事故であっても、誤えん発生時に適切な対応を行っていたかも過失を判断する重要なポイントになります。私たちは誤えん発生時の不可欠な対応は次の4点と考えています。

  1. 誤えんリスクの高い利用者に対してリスクに応じた見守りをしていたか?
  2. 誤えんの発生を迅速に把握して対応を開始したか?
  3. 迅速に病院へ救急搬送したか?
  4. ハイムリックや背部叩打法などの救命処置の方法は適切だったか?

本事例は過失の可能性が高い

このように、誤えん事故の防止や発生時の対応に不可欠な対策を踏まえると、本事例は過失があるのでしょうか?「認知症利用者の詰め込みグセ」への対策が不十分ではないかと考えます。誤えんのリスクの高い利用者は絶えず視界に入るようにしなければなりません。また、発見時の救急搬送が遅すぎると言われるでしょう。一般的には呼吸停止から5分程度で救急車を要請しなければなりません。本事例は裁判になれば過失と判断される可能性が高いと考えられます。

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監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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