■無過失の誤えん事故と説明
 Hさんは特養に入所している要介護3の男性利用者です。えん下機能に障害はなく自力摂取の普通食です。過去に誤えんのヒヤリハットもありません。ある時、食事中にHさんの動きが止まったことに、介助中の職員が気付き声を掛けましたが返事がありません。職員は誤えん事故と判断し看護師を呼び吸引を施行しましたが、改善せず救急搬送しましたが病院で亡くなりました。
 施設では、Hさんの誤えん事故は不可抗力であり未然に防ぐことが難しかったこと、誤えん発生時に対応は適切であったことを説明し、キーパーソンの長男は納得してくれました。ところが、2カ月後にキーパーソンの弟さんの代理人の弁護士から、誤えん事故は「食事中の見守りを怠ったことが原因で過失がある」として賠償金を請求すると書面が届きました。施設長はすぐにキーパーソンの長男に連絡すると、「弟が納得してくれない。本当に申し訳ない」と謝るばかりでした。

■死亡事故では他の家族から賠償について異論が出る

■葬儀で兄弟が集まると

施設の事故で利用者が亡くなると、キーパーソンの家族が納得しても、葬儀で集まった兄弟から疑義が出ることがあります。「お父さんは施設の事故で死んだのだから、賠償請求した方がいい」と、しっかり者の弟がキーパーソンの長男に意見をするのです。

在宅介護の経験もあるキーパーソンは施設にも理解がありますが、介護の経験も無い弟は理解してくれません。結局「お兄さんは施設の言いなりになっちゃう、僕が弁護士に相談してみる」と弟が乗り出してきます。弁護士は事故の状況について情報がありませんから、弟の言い分をそのまま受け入れて、損害賠償請求の書面を送って来るのです。対応いかんによって訴訟に発展します。

■誤えん死亡事故で訴訟を回避するには?

死亡事故が起こるとその後事故に対して親族がどのような対応を考えるのか、施設では知る余地もありません。疑義を唱える弟が施設に乗り込んでくればまだ対応の余地がありますが、いきなり弁護士が関与してくると施設には説明の場も与えられません。では、死亡事故が起きた時他の親族からの賠償の追及を防ぐには施設はどのように対応したら良いのでしょうか?

■要求されなくても「事故調査報告書」を渡しておく

 ある施設では死亡事故が発生したら、必ず綿密な調査を行い「事故調査報告書」家族に渡しています。キーパーソンの家族には、「ご兄弟などに事故の説明する機会があればお渡しください」と言って渡します。事故の過失に疑義を唱える弟が賠償請求しようとすれば、報告書が弁護士の手に渡りますから、弁護士も過失の有無について正確な判断ができます。調査報告書の作成はそれほど難しくありません。あらかじめ決められた調査項目に従って。対策の実施状況を調査し書面にするだけです。もちろん調査報告書には調査に基づく施設の過失判断も記載しますが、「ご納得いただけない場合には法律の専門家にご相談ください」としています。

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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