■1時間に10回コールが鳴った!
 老健のショートステイのM職員はその晩夜勤でした。行動が活発で認知症の重いHさんが入所する日で、真面目な性格のM職員は認知症介護が苦手なため、少し気が重くなっていました。Hさんは、前月から家族の要望もあって離床センサーを設置することになっていました。午前2時頃、Mさんはフロアに独りきりで、パッド交換の時間となり少し忙しくなりました。そんな時、Hさんの居室のセンサーコールが鳴り、駆けつけてトイレ介助をすると尿は出ませんでした。仕事に戻ると5分後にまたHさんのコールが鳴り、駆け付ける、と同じことの繰り返しでした。その後、10回近く同様にコールが鳴るため、M職員は耐え切れず、Hさんの頭を叩いて紐でベッドに縛り付けてしまいました。他の職員が出勤する前に縄を解きましたが、手には縛られた跡が付いていました。面会にきた家族にHさんが「叩かれて縛られた」と訴えたため、家族は警察に行き事情を話しました。警察の事情聴取に対してM職員は虐待を認め、「センサーがうるさく鳴るので動けないようにしようと思った」と答えました。

センサー機器の設置運用のルールを決めるべき

■虐待のトリガーになる場合も…

他の職員にも頼れない独りっきりの夜勤帯に、執拗にセンサーコールが鳴り続けると冷静さを失うことは十分に考えられます。真面目な職員ほど「一時的にセンサーを外してしまえば良い」とは考えず、我慢して対応を重ねるうちに理性による行動のコントロールが難しくなります。もちろん、センサーコール対応が原因だとしても虐待行為が許される訳ではありませんが、施設はセンサー機器の設置運用のリスクと対策をきちんと考えなければなりません。
まず、行動が活発で何度もセンサーコールが鳴るHさんのような利用者に対して、センサー機器を設置することは妥当なのでしょうか?職員は精神的にも参ることもありますし、あまりに頻回に鳴ったのではリスクに対応するセンサー機器の機能も果たせなくなります。

■どのようなケースでセンサー機器を設置すべきか?

センサーマット(もしくは離床センサー)の設置を巡って賠償責任が争われた裁判は、大阪地裁判決(平成29年2月2日)など3件あります。これらの判例を検証すると、センサーマットの設置は「重大事故につながる切迫した危険が予測できる場合に設置義務が認められる」と解釈することができます。
 例えば、居室で転倒のヒヤリハットや事故が一度起きていて、再度同様の事故が起きれば生命の危険が予測されるような場合で、設置できるマットがあるというケースです。このように考えると本事例のMさんの転倒事故の場合、居室のトイレに行って危険が発生する事象は起きておらず、センサーマットを設置する義務は無いことになります。

■マニュアルを周知し家族にも適切な説明が必要

 本事例のような悲惨な虐待事故を防ぐためには、センサーの設置運用に関するマニュアルを整備し、家族にも適切な説明が必要になります。特にショートステイで顕著なのは、「あっちのショートではセンサーマットを設置してくれた」といった、センサー機器の設置を求める家族への対応であると考えます。

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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