事例

Aさんから、伯母のYさんの終活を進めるあたり、相談したいことがあると連絡をいただきました。
ご主人のXさんに先立たれてからは、隣接県の山奥で一人でお住まいだったYさん。お二人の間にお子さんはおらず、高齢で一人暮らしが困難になったYさんに、姪のAさんが声を掛け、現在は東京でAさんと一緒に暮らしています。
山奥の家の固定資産税はYさんが納めており、終活を進めるに当たり、もう誰も住んでいないその家を処分したいとのことでした。しかし、権利証もなく、そもそも誰名義なのかもわからない状態。そこで、権利関係を確認したところ、
Xさん名義のままでした。そうなると、まずは20年以上前に亡くなったXさんの相続手続をしなくてはなりません。

結果

詳しくお話をお聞きしたところ、Xさんは再婚で、前妻との間の子Bさんがいるようです。
そうなれば、Xさんの相続手続の相続人は、YさんとBさんになります。実は、YさんがXさんと結婚した当初、Bさんと少しの間は一緒に暮らしていたそうですが、まもなく前妻側に引き取られ、それ以来疎遠のままとのこと。
一方、山奥の家は、老朽化が進んでいることに加え、住宅街からも離れ、特に目立った観光地もない為、処分しようにも売れる見込みがありません。処分に時間がかかることを考えると、高齢のYさんではなく、子であるBさんに受け取ってもらいたい、AさんとYさんがそう思うのもよくわかります。
そこで早速、Bさん宛に、遺産分割により財産を受け取ってもらいたい旨の手紙を
書きました。よくある遺産分割協議とは異なり、財産を譲り合う内容です。
しばらくして、Bさんから返事が届きます。その内容は、「遺産分割には協力するが、
その不動産は要りません」というものでした。残念ながら、妻のYさんが相続して処分
するしか方法はないようです。Bさんは遺産分割協議書に快く署名押印し、Yさんへの
名義変更は滞りなく行われましたが、これからが大変です。
AさんはとりあえずYさんと一緒に現地に行って、近くに住む親戚と相談してみますとおっしゃっていました。

ポイント

終活のススメ(不動産編)

●エンディングノートによる棚卸

もしもの時のために準備しておく「終活」。その羅針盤となるものがエンディングノートです。エンディングノートを利用して、まずは財産の「棚卸し」をすることが「終活」の第一ステップでしょう。
ご自身の不動産を「棚卸し」する際には、①権利証や固定資産税納税通知書を確認し、②法務局に行って登記事項証明書(登記簿)にて現在の登記内容を確認することをお勧めします。把握できていない非課税の私道や、住宅ローン完済のはずが抹消されていない抵当権、土地や建物が祖父母やそれ以前の名義のまま…などという状態が発見できるかもしれません。そのまま放置しておくと、遺言を書く際の支障となりますし、次に遺された相続人が苦労することになりますので、「棚卸し」と共に、未済の手続きを進めておくと、なおいいでしょう。


●不動産の相続登記義務化

今回のケースのように、相続が生じても登記がされないことなどを原因とした「所有者不明土地」問題を解決するための制度を盛り込んだ法律が2021年に成立しました。このうち、不動産の相続登記の申請義務化については2024年4月1日から施行されます。終活の上でも、今後の法改正に備える上でも、今一度、登記簿を確認し、手続き漏れがあったら早めに対処しておくことが必要です。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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