はじめに

保育園など集団生活の場において避けることができないのが転倒による事故です。

子どもは発達の過程において転ぶことで体が鍛えられ、子ども自身の気づき力も向上していきます。しかしながら、転倒は大きな怪我(頭部外傷や骨折など)につながる可能性もあり、その後の成長に悪影響を及ぼしかねません。そしていったん転倒事故が起これば、何よりもご家族に納得できるような説明が必要になります。支援者は「子どもは転ぶもの」「環境設定ができてなかったことが原因」などと安易に捉えることなく、個別に丁寧に原因を探り、再発防止を講じる義務があります。ここでは、日常起こりうる「転倒」の要因について考えます。

子どもの能力評価は出来ていますか?

1)目の前の子どもは今どの発達段階にいるのか?

ほとんどの子どもは1歳~1歳半でひとり歩きができるようになります。しかしながら、歩くまでの習得過程には個別性があります。1歳を過ぎていても、体幹や下肢の力が不十分で、手による支えが必要であったり、バランスを崩すと立ち直れなかったりします。また、歩けるようになった後でも、走る、ジャンプをするなどは次のステップでの獲得能力になります。目の前の子どもがどの発達過程にいるのかをまず評価することが大切です。

2)運動の基礎となる感覚は大丈夫?

運動能力の習得には、基礎となる五つの感覚(視覚、前庭感覚、固有感覚、触覚、聴覚)が必要です。下肢の筋力や運動機能だけでなく、これらの感覚が基盤となっていることを意識して子どもの動きを観察してみましょう。

・視 覚
脳の中で「目から入った情報を処理する」機能、つまりは、空間における形や色、奥行きなどを捉える感覚です。そのため視覚情報を処理できないと、バランスを崩した際に、体を支えようとして手を伸ばしても、距離感がつかめなかったり、高いところから降りようとした際に、奥行きや高さが捉えられずに落ちてしまうことがあります。また視覚情報が過剰になりやすい子どもは、注意がそれやすく、何でも目に飛び込んでくるものに気を取られてしまい、転んでしまうこともあります。

・前庭感覚
体の傾きや揺れ、スピード、重力などを感じ取る主にバランス機能に必要な感覚です。前庭感覚が働きにくい子どもは、走りながら同時に手を使うことが苦手であったり、視覚情報が遮断された中ではバランスを崩しやすくなります。

・固有感覚
体の位置や、手足の部位を感じ取る感覚です。私たちは、目で見て確認しなくてもどこに自分手足が位置しているか分かります。固有感覚が発達していないと、たとえばジャングルジムに登っても降りる時にどこに手足を置いて良いか分からず、落ちてしまったりします。

・触 覚
歩くときや走るときは、主に足の裏からの感覚を頼りにしています。しかし、触覚が過敏な子どもは、常につま先立ちをしているため足裏全体で地面を捉えられていなかったり、足裏からの情報が上手く脳に伝わらず、バランスや運動に影響を及ぼすことがあります。

・聴 覚
聴覚が直接転倒につながる可能性は少ないかもしれませんが、集団のなかでは、周囲の雑音の中から支援者の声掛けや注意を聞き分けることができず転倒につながることがあります。

転倒の要因は、環境設定だけの問題ではありません。
個別に子どもの能力を見極めて、再発防止を講じることが大切です!

執筆者情報

執筆:株式会社東京リハビリテーションサービス 
作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

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