◆増え続ける園児の行方不明事故

Aちゃんが通う園では、園長先生の方針で、好き嫌いの多い子どもに対して、「嫌いな食べ物を食べるまで、お友達と遊ばせない。午睡をとらせない。」このような対応がなされていました。Aちゃんは、偏食もあり、毎日園では昼食が食べられず、お友達と遊ぶこともできず、ついには通えなくなってしまいました。園ではしつけのつもりでとった対応が、思わぬ事態に繋がることもあります。
 昨今では虐待も含めた子どもに対する不敵切な関わりや療育を包括的に指す「マルトリートメント」の考え方が注目されています。「マルトリートメント」が行われると、子どもの脳にも影響を及ぼすことが分かっており、その結果学習意欲の低下やこころの病に結びつく危険性があると言われています。

◆「マルトリートメント」と「虐待」は何が違うの?

児童虐待には、「身体的虐待」「ネグレクト」「性的虐待」「心理的虐待」の4つが挙げられます。

身体的虐待殴る・蹴る・やけどを負わせるなどの身体に痣や痛みを与えること
ネグレクト外出制限、食事を与えない、車に置き去りにする、医療を受けさせないなど
性的虐待子どもへの性的行為の強要又は意図的に見せる、ポルノグラフィの被写体にするなど
心理的虐待言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、目の前で暴力をふるうなど

これらの関わりは、近年「マルトリートメント」という新しい概念で注目されています。
マルは「悪い」、トリートメントは「扱い」という意味で「不適切な療育」と訳されます。
マルトリートメントは、虐待とほぼ同義として捉えられますが、虐待とは言い切れない大人から子どもへの発達を阻害する
行為全般を含めた不適切な養育を意味します。加害の意図の有無にかかわらない、より広い概念です。

◆「マルトリートメント」と「しつけ」の区別

マルトリートメントには、しつけと称して閉じ込めたり、暴言をぶつけるといった心理的・精神的な虐待も含まれます。
ニュースで見られるような身体的虐待といった極端なケースではなくても、日常生活の場面において起こりうるものです。
子どもと関わる多くの大人が、自分は児童虐待と無関係だと思って見過ごし、日常的に不適切な接し方で子どもを傷つけてしまっている可能性もあります。例えば、下記のような関わりもマルトリートメントにあたります。

◆マルトリートメントは子どもの脳にも影響が

マルトリートメントが続くと、発達段階にある子どもの脳に大きなストレスを与え、実際に変形させていることが明らかになっています。さらには、愛着形成がなされないまま、子どもの学習意欲の低下を招いたり、引きこもりになったり、大人になってからも精神疾患を引き起こしたりする可能性があると言われています。これらは保護者や保育者だけの心がけではなく、余裕の無さがきっかけになる場合もあります。保護者が孤立しないよう周囲が気づくこと、また、保育者の人員体制の見直しも保育施設内でのマルトリートメント防止には大切になってきます。

しつけと思っていた何気ない言動が、虐待に繋がることも・・・マルトリートメントに対して正しい理解を!

執筆者情報

株式会社東京リハビリテーションサービス
作業療法士・公認心理師 竹中 佐江子

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