災害大国

我々が住む日本列島はアジアモンスーン地域に位置する台風の通り道にあり、4枚のプレートが重なる上に鎮座し、2000本の活断層が走り、66万箇所の土砂災害警戒区域が存在しています。
さらに、国土の約70%が山岳地帯であるがゆえに、勾配が急な河川、そして同じ理由から大半の国民が河川、海岸、火山の近くに住居を構えています。世界と数字で比較しても、国土面積が世界の約0.28%の日本に、世界の活火山のうち約7%があり、世界で起きるマグニチュード6.0以上の地震の約18%が日本で発生しています。
文字通り、数字通り、世界でも有数の災害大国です。そのため、私たちは常に災害を身近に考え、備える必要があります。

日本における犬・猫の飼育状況

世界第11位の人口1億2千477万人、約5,700万世帯が住む日本において、12.6%にあたる約715万世帯が犬を、9.8%にあたる約554万世帯が猫を飼養しています。その頭数は、犬が890万頭・猫が960万頭にも上ります。
(参考:一般社団法人ペットフード協会「平成30年全国犬猫飼育実態調査」より)

つまり、ひとたび災害が起きれば、被災しているその地域の住民の中には、前出のペット飼育世帯率とほぼ同じ割合で犬・猫を飼育している住民がいると考えられます。そして避難行動を必要とする際、並びに後日SNSを中心に話題に上るのが、ペットを連れた避難の是非です。

国としての取組み状況

東日本大震災(2011年3月)において、自宅に残されたペットや飼い主とはぐれたペットの放浪、ペットと共に避難できた避難所における、動物が苦手な方やアレルギーの方との共同生活を送る中でのペットの取り扱いに苦慮した事例が発生しました。
そうした事例を受け、環境省は2年後の2013年に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を策定し、自治体に配布しました。
※2016年熊本地震の事例を受け、2018年改訂。

災害時のペットの取り扱い

もし災害が起きた時、避難所に連れて行けずに放置されたペットが自由に動けるようになってしまった場合、元ペットとは言え移動制限のない地域で生きたまま捕獲するのは至難の技です。
また、後から全頭捕獲しようとすると、人員も時間もお金も相当かかると考えられます。そして1年も経てば、人間が一切関与しないで生まれ育った犬が増え、近づくことさえできなくなり、捕獲は困難を極めることになります。
そういうことであれば、自宅であろうと避難所であろうと、有事であろうとなかろうと、飼い主に管理責任を負う必要があると考えています。

また、避難所においても、普段とは環境が違いすぎるため犬や猫も不安で緊張し、普段通りではいられません。
それでもその犬の・その猫の性格や苦手なもの、こと、人を把握している飼い主家族が管理・コントロールした方がトラブルはより少ないと考えています。

自治体における取組事例

しかしながら、環境省からのペット同行・同伴避難についてのガイドラインは出されているものの、実際には【ペット同伴は不可】【正式には決まっていない】という自治体が多いのが実情です。そのような中、2018年の西日本豪雨災害において、ペットの避難に関する取組によって、全国のペットと暮らす者の間で一躍有名になった市もありました。(以下A市。)

A市では、市長がツイッターアカウントにて『ペットは家族』という旨の呟きをし、なかなか実現しないペットと暮らす者のマイノリティの希望を、行政サイドが責任を持って発言したのです。もちろん発言だけでは留まらず、市内11ヶ所に設置した避難所のうち、市庁舎など3ヶ所を公式にペット同伴可能避難所としました。その際、普段から家の中で室内飼いされている犬達は、ケージの中に入ってはいるものの、避難所建物内で家族と一緒にいられるようにしてあげ、普段外で飼われている犬には公園を開放するといった配慮がされました。

犬の普段の生活に合わせた避難が功を奏し、慣れない避難所での生活でも、この比較的普段と近い環境で家族の近くにいられたことで、激しく吠えたり、他の犬と喧嘩になったなどのトラブルはほとんどなかったそうです。
このような事例が増えるよう、自治体での避難所運営のポイントや留意点等について、次号以降で解説していきます。

執筆者情報

記事の作成・編集:株式会社まつもとひでき 代表 ドッグトレーナー、犬を愛する防災士・松本秀樹

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