事故集計分析から何を把握したいのか?

デイサービスさくらでは、事故件数を毎月法人本部に報告しています。毎月行われる法人のリスクマネジメント委員会では、前月の事故件数と共に、年初来の累計事故件数が集計され前年対比の増減が問題とされます。そして、毎年5月には前年度の「事故防止活動成績」として、一昨年の件数との比較表が配られます。今年も5月中旬のデイの職員会議で、所長が昨年度の「事故防止活動成績表」を職員に配りました。役所報告の事故件数が前年比で2割増え、転倒事故件数が前年比で4割も増えており、法人内の他のデイサービスに比べて“成績が悪い!”と叱責しました。所長は「今年度は転倒防止対策を最重点に取り組み、事故件数2割削減が目標です。事故データ分析表が出ていますから良く見て下さい」と話し、主任と看護師にどのように取組を強化したら良いか考えて欲しいと依頼しました。主任と看護師は事故データ分析表を見ても、強化策は何も思い浮かびませんでした。

発生場所と発生時間を分析しても何も分からない?

何のために事故件数を集計するのか?

 毎月の事故件数を事故種類ごとに集計して、これを年間累計で示すことは法人の管理業務としては当然のことかもしれません。しかし、役所報告の必要がある転倒事故件数(骨折事故)が増えたとしても、単なる偶然ということもあり、この数字で現場を評価するのは難しいかもしれません。もっと大きな問題は、事故データ分析表を見てもどんな取組をどのように改善すれば事故が減るのか分からないことです。よく見かける事故データ分析表は、事故場所と事故発生時間別に分析されていますが、場所と時間の傾向が分かっても事故防止活動に役立てることができるのでしょうか。

何のために事故データを分析するのか?

 では、事故防止活動に活かすためには、どのような方法で事故データ分析を行えば良いのでしょうか?分析表から活動の問題点が把握でき、改善につながるような分析に変えるためには、事故件数の集計方法も変えなければなりません。
 例えば、転倒事故を「介助中の転倒事故」「見守り中の転倒事故」「自立歩行中の転倒事故」の3つの転倒形態に分けて件数を集計したら、何が分かるでしょうか?介助中の転倒事故が多ければ、介助方法に問題があるかもしれないと考え、介助方法を見直すことで事故が減るかもしれません。自立歩行中の事故が多ければ、施設の設備や利用者の歩行補助具などを改善することで、事故が減るかもしれません。

事故データの報告方法を見直す

 事故データを効果的に活用するためには、データ分析の目的を決めてこれに合った報告方法に変えなければなりません。転倒事故件数の他にも、誤薬事故も見直すべきでしょう。例えば、誤薬事故を「飲み間違い誤薬」と「取り違い誤薬」に区分した上で、取り違い誤薬は「薬の取り違い」と「利用者の取り違い」に区分しています。服薬が自立の利用者の飲み間違いが多ければ、服薬介助に切り替えなければならないかもしれません。また、薬の取り違いが突出して多い施設があれば、薬袋のピックアップ事故の氏名確認や服薬直前の薬の照合の方法を改善しなければなりません。利用者の取り違いが多ければ顔写真で本人確認を行うなどの、工夫が必要になります。

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

こちらの記事もおすすめです