最近よく出るワード「デジタル行財政改革」

内閣府やデジタル庁と話をしていると最近よく出るワードに「デジタル行財政改革」という言葉があります。デジタル田園都市国家構想と比較して新しい言葉なのでまだなじみは無いですが、これからの日本の人口減少社会に対応するために社会変革しなくてはならないという国の決意と実現に向けた考え方です。
デジタル行財政改革を着手する時代環境として、人口減少(生産年齢の減少:2020年:約7,500万人⇒2040年:約6,200万人、約1,300万人減少)、高齢化(高齢化率:2020年:28.6%⇒2040年:34.8%)、人口密度低下による公共サービスの生産性低下による提供困難化、個人ニーズの多様化、デジタル技術の進展などが揚げられています。

デジタル行財政改革の基本的な考え方

デジタル行財政改革担当大臣 河野太郎氏が第一回のデジタル行財政改革会議の中で以下の3点を挙げています。
(誤解が無いようにそのまま記載します)

1.地域を支える公共サービス等に関し、システムの統一・共通化等で現場負担を減らすとともに、デジタルの力も活用してサービスの質も向上。
2.あわせて、デジタル活用を阻害している規制・制度の徹底的な見直しを進め、社会変革を起動。
3.EBPMの手法も活用し、KPIや政策効果の「見える化」を進め、予算事業を不断に見直し。これらによって、デジタルの力を活用して、豊かな社会・経済、持続可能な行財政基盤等を確立する。

現状

◆生産年齢人口の減少、少子高齢化、サービス需要密度の低下 ⇒地域の社会・経済の衰退、多様な公共サービス等を受ける機会の制約
◆DXの遅れ(実証止まり、規制が阻害、バラバラのシステム調達、不十分な官民のデータ連携)、生産性の停滞

アクション

◆公共サービスから率先してデジタル化・サービス改革(オンラインサービスの提供、システム統一・共通化、官民のデータを活用し社会変化に応じてサービスを最適化)
◆デジタル活用を阻害する規制・制度の徹底的な見直し
◆データ等の「見える化」による予算事業の不断の見直し

理想の状態

◆豊かな社会・経済、持続可能な行財政基盤、新たな価値や多様な選択肢の確保
◆民間事業者や市民を巻き込んだDXの浸透・実装、 高い生産性

以下の2点は、「現状」「アクション」「理想の状態」にかかる視点として重視されています。
⚫︎利用者起点
ヒアリング・観察による利用者起点の課題発見、制度・システム構築、体験の向上
⚫︎EBPM
データ分析による課題発見、進捗管理、効果測定

デジタル行財政改革会議の位置づけ

デジタル行財政改革会議は、規制改革・デジタル改革・行政改革・デジタル田園都市国家構想及び各府省庁の改革の司令塔であり、総理のリーダーシップの下で方針決定を行い、デジタル行財政改革を国・地方を通じて一体的かつ強力に推進する体制で進めるようです。
デジタル行財政改革会議の構成として、以下の4つの組織と会議を位置付けています。

規制改革推進会議
規制改革を通じた制度等の見直し

デジタル庁
デジタル基盤の整備(国・地方・準公共通じた基盤等) 各省庁連携によるシステム整備

行政改革推進会議
行政事業レビューの活用を含めた施策の効果の可視化、EBPM行政組織・運営の効率化

デジタル田園都市国家構想実現会議
先進事例の発掘、横展開・全国展開の支援

出典:デジタル行財政改革会議資料4「デジタル行財政改革について」より抜粋

デジタル行財政改革の取り組み方針

主な取り組みとして、会議では3つの取組方針を掲げています。

取組方針① :主な改革への取り組みに着手
取組方針② :国・地方等のデジタル基盤の統一化・共通化の加速
取組方針③ :EBPMや「見える化」による予算事業の政策効果向上

取組方針①主な改革への取り組みに着手

具体的な分野として教育や交通、介護、子育て、防災、観光、スタートアップの7つが挙げられています。また、現在挙げられていない農業などの追加課題も今後対応を検討するようです。また、行政実務の効率化なども分野としては上がっていませんが、検討対応するようです。経済対策で加速化するという点も注目です。

それぞれの着手する「分野」や「デジタルで解決すべき課題」、「検討方向性」については以下の通りです。

教育分野

デジタルで解決すべき課題(例)
・デジタル教育環境の自治体間格差教師の不足
・長時間勤務児童生徒のニーズ特性の多様化
<検討の方向性>
(例)デジタル教材の共通利用基盤構築、GIGA端末・校務支援システムの活用促進(更新時の広域での統一・共同調達)、多様な人材活用による教師不足への対応、オンライン教育の活用、EdTechベンチャー活用 等

交通

デジタルで解決すべき課題(例)
・地域交通の担い手不足
・移動の足が不足
・自動運転
・ドローンの活用の遅れ
<検討の方向性>
(例)タクシー・バス等のドライバーの確保、不便の解消に向けた地域の自家用車・ドライバーの活用、自動運転・ドローン配送の事業化(インフラ整備・手続簡素化等)、移動関係の需給の可視化基盤 等

介護等

デジタルで解決すべき課題(例)
・介護等の人材不足
・介護
・医療等におけるデジタル技術の活用の遅れ
・制度の持続可能性
<検討の方向性>
(例)デジタル技術の活用の加速化(ICT導入支援、介護報酬・人員配置、運営協働化・大規模化、伴走支援、人材育成等)、介護の効果の計測、医療アプリ・機器・システムの開発促進、オンライン診療の拡充・展開、医療・介護テックベンチャーの活用等

子育て・児童福祉

デジタルで解決すべき課題(例)
・子育て世代等の負担
・サービスの質の確保
<検討の方向性>
(例)プッシュ型子育て支援、保育DXによる保育現場の負担軽減(ICT導入支援等)、児童福祉等の相談窓口のマルチチャネル化、施設・自治体・国のデータ連携/AI活用相談支援、子育てアプリベンチャー等の活用、地域の関係者が連携し、妊産婦が安心して出産・子育てをできる環境の整備 等

防災

デジタルで解決すべき課題(例)
・避難所等における多様なニーズの把握と対応
<検討の方向性>
(例)マイナンバーカードを活用した発災時対応のためのインフラ、要配慮者等を含む被災者対応の高度化(多様な民間ITソリューションを利用可能とする基盤整備、調達改革)、防災テック等ベンチャーの活用 等

インバウンド・観光

デジタルで解決すべき課題(例)
・外国人が利用するサービス改善
<検討の方向性>
(例)観光客増加に対応した手続の総点検、インバウンドの利便性向上、外国人による金融機関の利用や少額の外国送金の円滑化、訪日外国人の民間医療保険加入の在り方 等

スタートアップ

デジタルで解決すべき課題(例)
スタートアップの成長促進
<検討の方向性>
(例)スタートアップ設立円滑化のための公証人による定款認証に関する見直し、公共調達におけるスタートアップ参入機会の拡大 等

取組方針②国・地方等のデジタル基盤の統一化・共通化の加速

国・地方等のデジタル基盤の統一化・共通化を加速し、低コストで多様なサービスを提供可能に。

民間サービスの共同調達(デジタルマーケットプレイス(DMP))

日本全国どの地域でもデジタル化の効果を実感できる仕組みに
ベンチャー等の優れたサービスを全国展開
<検討の方向性>
優れた民間のサービスを国・自治体等が迅速・簡易に調達する仕組み(DMP)について年内に制度面を整理し、2024年度後半に本格稼働を目指す。

ガバメントクラウドを基盤とした安全で効率的な全国的システム

公共アプリの共通化・標準化
署名検証アプリ 新マイナポータル 業務効率化と開発・運用コストの低減 どの自治体からでも、同様の利用者体験

<検討の方向性>
国主導での共通機能(認証・署名/決済/通知のアプリ、ポータル等)やキャッシュレス等の公共アプリの整備 自治体の共通的な事務の一括的な整備・活用(例.相談業務のAI・コールセンター等)データと連携基盤の整備
データ連携基盤 社会の基盤となるデータ(法人、土地等のベースレジストリ) 分野毎の手続きの再入力が不要となり、業務が効率化 自治体ごとの様式等の統一による業務効率化

<検討の方向性>
ベースレジストリ整備と行政手続等での活用の制度整備 自治体の書類・様式等の統一(ローカルルールの原則見直し)の加速 税務・会計・取引など公共機関と民間領域の一体的なデジタル完結の推進クラウド基盤とネットワークの共通化・標準化
ガバメントクラウド 国・自治体のネットワーク最適化 共通化によるコスト低減 世界水準でのセキュリティ強化

<検討の方向性>
2025年に向け基幹業務システム標準化・ガバメントクラウド移行の加速(移行支援、利用料管理の仕組み等)。他の公共サービス分野への拡大検討。

取組方針③EBPMや「見える化」による予算事業の政策効果向上

事業に適切なKPIを設定し、 EBPM手法も活用して、政策効果を向上。
DX推進に関するEBPMの手法を確立し、政策効果の可視化や不断の見直しにつなげる。

<指摘される事項>
⚫︎予算の総額やタイトルに注目が集まり、内容や執行時・執行後の効果の検証が不十分。
⚫︎政策立案が当局の知識経験や関係者の声に依存し、データ活用が不十分。
⚫︎DX関係の事業について、効果がわかりにくく、実証止まりで、好事例が全国展開しづらい。

<検討の方向性>
⚫︎行政事業レビューシートにIDを付して、データベース化やダッシュボード化などを進め、更なる「見える化」を推進。
⚫︎不十分なKPI設定や期限設定の改善などを通じて、コロナ以降に拡大した事業・基金を見直し、政策効果を向上。
⚫︎DX関係の事業について、政策の各段階(デジタル基盤の構築・活用、成果発現)において、進捗管理や効果測定、事業見直しなどを行う手法を確立し、政策効果を高める。

デジタル行財政改革が目指す社会

デジタルを最大限に活用して公共サービス等の維持・強化と地域経済活性化を図り、社会変革を実現するためにデジタル技術の社会実装に向けて、後押しをしています。
人口減少が進んだ未来の日本の土台作りをしているこの取り組みを今後も注視していきたいと思います。

出典:デジタル行財政改革会議資料4「デジタル行財政改革について」

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執筆者情報

著者 株式会社カルティブ 代表取締役 池田 清

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