事例

Aさんから、お父様Xさんの相続について、相談をいただきました。
お母様のYさんと一緒にお越しになったAさんいわく、「父が亡くなり、弟のBに相続のことを任せていたところ、急きょ弟が転勤になって、後は頼むと言われてしまって…」とのこと。また、「父の財産のことはよく分からないが、弟からは自宅の名義変更が残っていると言われていて、そのほかに、少し預金もあるようです。」お母様のYさんは、お話をAさんに任せて、隣でおとなしく座っています。

結果

Xさんの相続人は長女Aさん、長男Bさんと、奥様のYさんの三人。Yさんは専業主婦として一家を支えてきたということでした。AさんもBさんも結婚して別居していますが、Bさんはよく実家に顔を出しているそうです。
Aさんのお話にあったように、相続財産は自宅不動産と銀行預金ということで、お持ちいただいた1冊の預金通帳を拝見しました。

Xさんは現役時代に上場会社の役員をされており、元気にご自宅に住まわれて医療費等は多くかかっていませんでしたが、その割には、預金額が少ない印象を受けました。Yさんに「生前に贈与を受けられたことがありますか?」と訊くと、「そんな人じゃないです」との答え。そこで、「大変失礼ながら、差し支えなければ、お母様はご預金をいくらくらいお持ちですか?」と再度尋ねたところ、「K銀行やU銀行に数千万あります」というご返事でした。

驚いたAさんが詳しくお訊きになると、亡くなる数か月前に、Xさんの同意の上で預金を解約して、家の近くにある銀行、信用金庫等数行に分散して、Yさんの定期預金として入れたということでした。その際、Bさんが同行し、各金融機関で手続きを行ったそうです。YさんもBさんも、財産を隠すつもりは全くなく、単に、相続手続が面倒そうだから、先にお母様の口座に移しておこうとしただけのようでした。

そのことから、BさんはAさんに、「後は不動産の名義変更だけ」と伝えたのでしょう。このYさんの口座に入った財産は、贈与かどうかに関係なく、Xさんの相続財産に計上する必要があります。計上により、相続税申告が必要となりましたが、幸い、申告期限まではまだ余裕がありましたので、税理士を紹介し、無事に申告を行いました。

子供が相続手続を代表して行うことが多いですが、その場合はご家族皆様の話を聞かないと、手続漏れが生じる可能性があることを改めて痛感した事例です。

ポイント

名誉貯金(みなし財産)の注意点

被相続人の名義でない預金であっても、被相続人の相続財産とみなされる場合があります。いわゆる名義預金です。被相続人の預貯金が贈与の手続きを経ずに、相続人名義の預貯金となっている場合です。親が子供名義で預金していた場合や専業主婦の妻名義の預金などが問題となることが多いようです。
贈与のつもりで相続人に名義を変えても、実際にその財産を被相続人が所有している場合には、贈与したことにはならず相続財産となります。贈与したと主張するためには、贈与した財産(通帳や印鑑)は贈与された人が管理することや、贈与契約書の作成、贈与税の申告をしておくなど、贈与した事実を明らかにしておくことなどが必要でしょう。
ご相談いただいたことにより、相続税申告が必要なことが判明しましたが、そうでなければ、そのまま申告期限を迎え、税務署からお問い合わせが来て慌てるという事態になったかもしれません。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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