事例

「最近、配偶者居住権という制度ができたらしいですね。とても興味を持っていて、教えてほしいのですが。」
以前、お母様が亡くなった際にご依頼いただいた、Xさん(男性)より電話が入りました。新しくできた制度であるため、資料を用意し、まずはお話を聴いてみることにしました。

結果

Xさんは一度離婚をして、今の妻のYさんと結婚をしました。二人の間には子どもはいませんが、Xさんには前妻との間に二人の子供AさんとBさんがいました。

二人の子供とYさんとの関係は最悪だそうで、顔を合わせて話すことすら全くできないという状況のため、Xさんは自分亡き後の家族のことを大変心配し、妻Yさんの生活を守っていくために何か良い方法がないかと考えていたところ、セミナーをきっかけにして「配偶者居住権」という制度があることを知ったとのことでした。

Xさんの想いは、「Yさんが自分亡き後も自宅に住むことができ、生活に困らないようにしたい、最終的に自宅の不動産は、長男のAさんに引き継いでもらいたい、さらには、家族で揉めることがなく円満に相続が終わるように、自分の遺志をしっかりと遺したい」というものでした。

このような想いで、Yさんのために配偶者居住権を設定したいと強く希望されたので、公証人と打ち合わせを何度も行い、Xさんのご納得がいく公正証書遺言を作成致しました。

もちろん、Yさんと、お子様のAさんやBさんへの気持ちを込めた付言事項も忘れずに加えました。遺言を作成し終えたXさんの表情は、安堵されて清々しいものでした。新しい制度である配偶者居住権は、きっとXさんのような想いを持った人々の家族を助ける制度として今後より世の中に普及していくことでしょう。

ポイント

民法が改正され、2020年4月1日に「配偶者居住権」が施行されました。

配偶者居住権の成り立ち

夫(妻)が死亡した場合に、残された妻(夫)は、住み慣れた自宅での居住を続けることを希望するのが一般的 だと思われます。特に高齢者である場合には、新たな環境で生活を立ちあげることは経済的にも精神的にも容易な ことではないと考えられ、このような配偶者の居住する権利を保護すべく、民法の改正によりこの権利が創設されました。

配偶者居住権の内容

配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、遺産分割で配偶者居住権を取得すること によって、原則として終身の間、その建物に無償で居住することができるというものです。所有権自体は子に取得させ、 配偶者は無償で居住できる権利を取得します。遺言で配偶者に遺贈することもできます。自宅建物を所有する者は、 遺言により、配偶者に居住権を確保しつつ、自宅の所有権については自分の子に取得させることが可能となります。
この配偶者居住権は所有権よりも低く財産評価されることになるため、遺産分割では配偶者は多くの預貯金を相続 できることになり、遺言での遺留分侵害額請求に対しても対処できると考えられ、老後の生活が困窮する 事態は避けられそうです。
配偶者居住権は、Xさんのように妻と(前妻の)子との間で相続手続の難航が予想される場合に、難問を 一挙に解決する制度だといえそうです。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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