事例

「株がいっぱいあって、何が何だか分からなくて・・・」とご主人Xさんを亡くされたAさんからご相談をいただきました。

早速ご自宅にお伺いすると、様々な銘柄の株式の配当金計算書が山のように積んでありました。ちょうど中間配当が行われる時期です。Xさんは財産、特に金融資産についてすべてご自身で管理しており、Aさんは全く分からないとのことで、同居する長男Bさんも同様でした。

まず、証券会社からの郵便物がないか探すと、配当金計算書の封筒の山からN証券とM証券の封筒が。封筒の中には、証券会社から定期的に送付される取引残高報告書が入っていました。次に、その取引残高報告書の銘柄と配当金計算書の銘柄を照合していきます。その結果、配当金計算書はあっても、取引残高報告書に記載のない

銘柄が数社ありました。念の為、両証券会社に照会をかけましたが同じ結果でした。

結果

上場会社の株式は平成21年の電子化以降、証券会社の口座で管理されていますが、株券電子化までに証券会社に預託していない株式は株主名簿管理人(信託銀行証券代行部)の特別口座で管理されています。
そこで、信託銀行で各銘柄のXさんの保有株式数及び特別口座の株式数の照会を行い、結果、保有株式数と特別口座の株式数が一致しない株式が2銘柄残りました。いったい、どこにあるのでしょうか?

別の証券会社で管理されていると考えられますが、証券会社1軒1軒確認していくわけにもいきません。
そこで、「証券保管振替機構(ほふり)」に情報開示を請求しました。実は、上場会社の株式は証券会社や信託銀行の口座を通じて「ほふり」が保管しており、そこに照会すれば、どこにその株主の口座があるかが判明します。

ひと月ほどして回答がきました。Aさんは既出の2社以外にR証券に口座があることが分かりました。R証券はいわゆるネット証券です。ネット証券の場合、取引残高報告書が郵送で送付されてくることがないため、残された相続人は口座の存在を知ることができないという落とし穴があるのです。R証券に照会をかけ、ようやく残りの2銘柄を確認しました。照会を何度も繰り返し時間を要しましたが、山と積まれた株式の全貌が把握できました。

ネット証券をはじめとしたネットでの取引は、相続人が財産を把握できない恐れがあります。エンディングノート等で財産を整理しておくなどの対策があればと思います。

ポイント

ネット証券の特徴と注意点

株式の電子化

平成21年以降、「社債、株式等の振替に関する法律」により、上場会社の株式等に係る株券はすべてが廃止され、上場会社の株式は、証券保管振替機構及び証券会社等の金融機関にて開設された証券会社の口座で電子的に管理されています。その相続手続は、預託している証券会社の被相続人の口座から相続人の口座にその銘柄を移管するという形で行う為、株主となる相続人はその証券会社に口座を開設する必要があります。

注意点

ネット証券やネット銀行等で取引がある場合、相続人はパソコンにアクセスできないと財産の全貌の把握が困難です。今回のケースのように、証券保管振替機構に開示請求するという手もありますが、時間と費用を要します。終活の一環として、エンディングノート等を活用し、ネット関係も含めた財産整理をしておくことが望まれます。しかし、その場合、どこのネット証券にどのような銘柄を預託しているか程度の記載にとどめ、銀行口座の暗証番号などと同じく、IDやパスワードまで詳細に記載することは控えた方がいいでしょう。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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