夜勤職員の申し送りのミスが原因?

ある特別養護老人ホームで利用者Mさん(認知症あり)が、夜中に居室で転倒しているところを発見されました。軽度の足の痛みだけだったため、当番看護師の判断で経過観察として、翌朝、家族同行で受診することなりましたが、念のため受診までは車椅子対応としました。ところが、翌朝早出の職員がMさんを居室から食堂まで誘導する時、いつものようにMさんを歩かせ、再度転倒させてしまいました。夜勤職員の申し送りのミスで、早出の職員はMさんが転倒し経過観察中で車椅子対応であることを知らされなかったのです。施設長が家族に「申し送りのミスで、朝歩かせて転倒させてしまった」と説明と謝罪をし、職員には事故の申し送りを徹底するよう指導しました。しかし、出勤時の申し送りだけでその利用者に関わる全ての職員に、重要な情報は伝わるのでしょうか?

事故報告業務の規定を作り運用を見直そう

事故の情報を職員が共有するには?

 本事例のような事故情報の共有ミスから発生するトラブルを防ぐには、迅速に職員が事故情報を共有できる仕組みを作らなくてはなりません。まずは、事故が起きたらすぐに事故速報を入力(もしくは記入)して、全ての職員にメールで送るなどしましょう。念のために、事故速報をプリントアウトして、居室の床頭台に貼っておけば安心です。さらに、出勤して業務用のタブレット起動時に、「事故速報があります」というメッセージが働けば誰でも気付くことができます。

気付いた危険を記録する取組み

 危険に気付いたら書き留めておいて都度、報告すれば、事故が発生する前に危険が改善できるかもしれません。しかし、忙しい介護職員が業務中に感じた危険を、全て記録することは容易ではありません。そこで、前述の重大事故を経験した施設が取り組んだのが「年1回の危険箇所総点検の取組み」です。取組み方法はとても簡単です。全職員に危険箇所記入用紙を配布し、1週間仕事をしながら、「危ないな」と感じた箇所を書き留めてもらいます。1週間経ったら記入用紙を回収して一覧表を作り、優先順位を決めて1年間かけて改善に取り組みます。

事故報告業務を見直し事故報告書を変えよう

 さて、事故速報だけを出しても良いのですが、その後また事故報告をしなければならず二度手間になります。保険会社用や自治体用など、同じ事故報告を何度も書く必要があり、これも見直さなければなりません。では、事故報告の業務をどのように見直して、どんな事故報告書に変えれば良いのでしょうか?まず、事故報告書の用途を考えてみましょう。

“利用できる”事故報告書にするためには

 事故報告書は事故を報告するだけでなく、その後に様々な用途に使用されます。まずは、家族への説明には必須の情報ですし、その後、自治体や保険会社への報告にも使用します。また、現場で再発防止策の検討にも事故情報が必要ですし、法人に報告して事故データの集計や分析に使用されることもあるでしょう。このように考えると、様々な用途に活用できる事故報告書にしていかなければなりません。では、どのように事故報告の業務を見直したら良いのでしょうか?

事故報告業務の規定はどのように作れば良いか?

 事故報告業務規定はまず、事故報告の対象とする事故を定義することから始めます。現状事故の定義が決まっておらず、事故の解釈が職員任せになっている施設が見受けられるため、統一しなければなりません。そして、各用途別の記入(入力)上の留意点などをマニュアル化して、事故報告の不備によるトラブルがないようにします。用途別の重要情報については特に注意が必要です。

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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