事例

叔父のXさんがお亡くなりになられたとのことで姪のAさんがご相談にいらっしゃいました。Xさんは生涯独身で5人兄弟の末っ子でしたが、既にご兄弟も全員お亡くなりになっていて相続人はAさんを含む甥姪7人とのことでした。そのうちAさんが一番法定相続分が多く、また年も若いということで代表して動き、相続の手続きを進めることになったとのことでした。
Aさんは、「実は、相続人じゃない人にも是非相続財産を渡したいのです。」と、話し始めました。

結果

既にお亡くなりになられたXさんのご兄弟は、いわゆる異母兄弟が3人(長女Pさん、長男Qさん、次男Yさん)と、両親が同じZさん(Aさんのお母様)とのことですが、母親が違うとはいえ、長女のPさんは弟のXさんを小さいころから可愛がっていて、Pさんの嫁ぎ先の北海道にXさんも居を移し、Pさん亡き後もそのご長男Rさんのご家族がXさんの面倒をみていたとのことでした。

Aさんがお葬式のために北海道に行くと、Rさんは10年前既に他界していました。しかし、Rさんの奥さんのBさんはご主人が亡くなった後も、義理の母であるPさんを看取り、その後もご主人の叔父にあたる独居老人であったXさんのお世話を、子供たちと一緒にしてくれていたそうです。それほど尽くしてくれたにもかかわらず、RさんがXさんより先に死亡しており、兄弟姉妹の代襲相続は甥姪一代限りであるという理由から、BさんもRさんのお子様もXさんの相続人とはならず、相続財産を受け取ることはできません。その事を知ったAさんは、「なんとしてもBさんとその子供たちに相続財産を受け取ってもらいたい。彼女にこそ、その権利があります!」 と、東奔西走されたのでした。
センターがご紹介をした税理士と話し合い、Bさんに贈与税の負担のかからない方法を確認した上、Xさんの相続人(Aさんの従兄弟たち)一人一人に掛け合い、相続人がそれぞれ自分の相続した分から併せて500万円を亡Rさんの妹である北海道に住んでいるCさんの相続分に上乗せしてCさんが相続する内容で遺産分割協議をまとめ、Cさんから1年に100万円ずつ計5年間、Bさんに贈与をしてもらうことになりました。

何の見返りも期待せず介護をしていたBさん親子も、「なによりその努力を皆さんが認めてくださったことが嬉しい」と喜ばれたのは言うまでもありません。故人のお世話をしてくれていた人にこそ遺産を渡したいというAさんの優しい熱意が、他の相続人の心を動かした事案でした。

ポイント

(2019年7月1日施行)民法改正により、相続人の親族(相続人以外の者)の貢献を考慮するための方策の条文が追加されました。
これまでは、相続人以外の者が、療養看護などで遺産の形成又は維持に多大な貢献をしている場合であっても、遺産の分配を受けることはできませんでした。この点について実質的公平に反するとのことで、今般の民法相続法の改正で、相続人以外の者であっても、一定の貢献をした場合には相続人に対して「特別寄与料」の請求をすることができることとなりました。(ただし相続人の親族に限る)

今回は贈与の形でAさんから、本来は遺産を受け取ることのできないBさんへの優しさが実ったケースでしたが、この法律改正が施行されたため、たとえば、長男の死亡後、その妻が義父の介護をしており、その義父が亡くなった際に、他の相続人である長男の兄弟姉妹に対して、妻が直接金銭の請求をすることができるようになりました。(相続人 以外の被相続 人の親族が無償で療養介護等を行っていた場合に限る)

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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