事例

夫Xさんが亡くなったということで、奥様のAさんとご自宅で面談しました。Aさんは目が不自由な方です。Aさんご夫婦にはお子様がいらっしゃいません。相続人はAさん以外に、Xさんの弟Bさんとなりますが、離れた地方にいらっしゃるので、近くにお住いの甥のCさん(Bさんの子)にご同席いただきました。
亡くなったXさんは健常者で、常にAさんを支えてこられました。Aさんのご病気は後天性で、20代に病気を告げられたそうです。その後に結婚をされ、徐々に視野が狭くなり、今は明るさしかわからないとのこと。Aさんご夫婦の歩まれてきた道を思うと、言葉に詰まります。

結果

ご自宅は郊外にある公営住宅で、相続財産は主に預貯金のみのようですが、Aさんがわかるのはおおよその額で、詳細までは分からないとのこと。というのも、Xさんは全盲の奥様を考え、貴重品はご自宅に置かず、通帳等はすべて貸金庫に預けていたからです。まずは貸金庫を開けるところから始めなければなりません。

故人が契約した貸金庫は、その相続人全員が同席して開扉するのが原則ですが、相続人が遠方にいらっしゃるなど、お越しになれない場合は、他の相続人への委任状で対応できる場合があります。今回も、遠方にお住まいのBさんの委任状を、Cさん経由で準備していただくことで対応できました。

貸金庫を開扉したところ、複数の金融機関に定期預金等がありました。金額はAさんが把握されていた額を大幅に上回るものでした。

その後は、Cさんにもお手伝いいただきながら、Bさんとの間での遺産分割協議をまとめました。Aさんは署名ができないため、遺産分割協議書は名前まで印字し実印を押印するという形で作成しました。各金融機関での解約手続きに当たっては、事前に事情を説明した上で、Aさんご本人に同席いただくことで、支障なく手続きを完了できました。

手続きが完了した後、雑談の中で、Aさんは医療の進歩を待ち望んでいるとおっしゃっていました。折しもIPS細胞のニュースが流れていた頃です。医療の進歩に伴う、高度な治療には高額のお金が必要となるでしょう。

Aさんが知らなかったXさんの預貯金は、Aさんの将来の治療のためのものであったのかもしれません。

ポイント

相続手続における貸金庫の取り扱い

開扉のタイミング

故人が金融機関の貸金庫を利用していた場合、相続手続を行う際には、まずは貸金庫の開扉から進めることをおすすめします。貸金庫には、遺言書や相続人が知らない財産(他の金融機関発行の定期証書や株券など)が入っている場合があるからです。特に、後になって貸金庫を開扉して発見した遺言書の内容が、相続人が想定していなかったものなら、相続手続きを大幅に変更しなくてはならない、といった可能性があるのです。

金融機関の対応など

しかし最初に行うといっても、複数いる相続人の一人からの要求により簡単に貸金庫が開扉できるとすると、当該相続人がその内容物を勝手に持ち去ったのではないかと、後日、他の相続人からクレームが生じる場合があります。そのため、各金融機関では、原則として相続人全員の立会いの下に開扉する、又は、相続人全員から同意を得て開扉するという規定を設けているのが一般的なようです。
なお、相続人全員の同意を得ることができない等の事情がある場合には、公証人に対して開扉への立会いと内容物の確認を求め、その結果を公正証書として残しておくという方法も考えられます。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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