◆あるデイサービスのトイレでは・・・
あるデイサービスで軽度の認知症のある右半身麻痺の利用者が、トイレ内で便座から転落して重傷を負いました。介護職員は車椅子でトイレまで連れて行き、利用者が自分で便座に移乗するのを確認してドアを閉めました。ドアの外で待っていた職員は突然“ドサッ”という音がしたので、ドアを開けてみると左前方に転落していました。頭部を強打したために意識喪失しており、救急搬送となりました。
デイサービスでは、「トイレ内で排泄中は職員も介助することはできないため、バランスを崩した場合助けようがありません」と家族に説明しました。
しかし、1年前にも同様の事故が発生して頭部から転落しており、法人のリスクマネジメント委員会では、「何らかの構造的な問題があるのではないか?」と、住宅改修など動作環境の知識があるPTなどがトイレの設備を点検することになりました。点検の結果、多くの構造的なリスクがあることが分かり、設備のリニューアルをすることになりました。さて、どのような構造的なリスクが見つかったのでしょうか?
無理な姿勢を強いられる使いにくいトイレの構造
◆事故の原因となった欠陥は3つ
住宅改修PTなど専門家チームが指摘した、事故のリスクにつながる構造的リスクは次の3点でした。
①L字手すりが便座から遠い:L字手すりに捉まろうとすると左にバランスを崩し、転落した時に床に直接落ちてしまう。
②L字手すりの位置が後ろ過ぎる:L字の縦手すりに捉まろうとすると、手すりが真横に来て立ち上がれずバランスを崩す。
③操作パネルが後ろ過ぎる:操作パネルが後方にあるので、身体を捻らないと触れられずバランスを崩す原因になる。

◆使いやすい安全な介護用トイレの3つの条件
①縦手すりを便座の先端から前方25センチ~40センチ離す
便座からの立ち上がり動作が自力または半介助の利用者は、縦手すりの位置が後方にあると、立ち上がりにくくなります。人は前方に重心を移して前かがみ姿勢を取ってから立ち上がります。縦手すりが後方にあると、前かがみ姿勢を取った時、縦手すりが真横にきてしまうので、捉まりにくくなるのです。
②便座の中心線と横手すりの距離は、25センチ程度
横手すりの位置が便座の中心線から30センチ以上距離があると、捉まる時に距離が遠くなって不安定になります。バランスを崩すと便座の左隙間に転落する可能性があるので要注意です。
③洗浄ボタンなどの操作パネルは座った人の肩より前に設置する
高齢者や身体に障害のある利用者は、上半身をよじる(反転させる)動作が苦手で、後方のパネルのボタンを押すことが難しいので、パネルは肩位置より前方に設置しましょう。非常用呼び出しボタンなどが、足元などに付いていると転落の原因になります。

◆たくさんの介護用トイレを点検してみました。別紙レポートを確認ください。
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