◆多発する誤薬事故に法人の委員会から苦言が・・・
特別養護老人ホームC苑では、施設内のリスクマネジメント委員会で様々な工夫をして、介護事故防止に取り組んでいます。しかし、なかなか事故件数が減らないのが誤薬事故で、委員たちは悩んでいました。ある時、1カ月に「誤薬事故件数5件」という不名誉な事態となりました。2件は認知症利用者の落薬、1件は同じく認知症利用者の誤薬で、食後の口腔ケアで口腔内に残っている薬を発見しました。残りの2件は服薬介助時に職員が間違った薬を飲ませる誤薬事故でした。翌月、法人全体のリスクマネジメント会議で報告すると、「1カ月5件はワースト記録!注意力が低すぎる。至急対策を徹底すること」と厳しい指導がありました。
C苑では早速リスクマネジメント委員会を開いて対策を話し合いましたが、認知症の利用者の服薬確認を完璧に行うことは難しく、口腔内を調べている時に暴れるなどのトラブルも起きていることが分かりました。それでなくても食事介助で忙しい時に、薬を飲んでくれない利用者に大きな労力をかけることは限界があり、職員は途方に暮れてしまいました。
“飲み間違い誤薬”と“取り違え誤薬”は重要度が異なる
◆誤薬事故を区分して管理する
誤薬事故は「職員のミスが原因で起こる典型的な事故」と思われているため、全ての事故を防がなくてはならないと思いがちですがそうではありません。誤薬事故には自分の薬を飲み間違える(飲み忘れる)事故と、他人の薬を取り違えて飲ませる事故の2種類の事故があります。前者を「飲み間違い誤薬」、後者を「取り違え誤薬」として、区分しなければなりません。
飲み間違い誤薬は防ぐことが難しい上、誤薬による身体への影響度が低いため、対策の重要度は高くありません。しかし、取り違え誤薬は命に関わる事故であり、重要度が高い事故にもかかわらず容易に防ぐことが可能です。このように考えれば、C苑のように誤薬件数が増えても飲み間違い誤薬が多ければ大きな問題では無いのです。

◆薬の取り違えと利用者の取り違え
C苑では重要度の高い「取り違え誤薬」が2件発生していますが、これも区分しなければなりません。
取り違え誤薬は、薬を取り違えるケースと利用者を取り違えるケースに分かれます。前者が多ければ薬をお薬ボックスからピックアップする時のチェックを厳しくしなければなりませんし、後者が多ければ利用者の本人確認を徹底しなければなりません。
このように「どのように間違えたのか」に着目して、ミス防止の対策を講じると共に、ミスが発生した時のチェックも同じように徹底することで誤薬件数を減らすことができます。
◆飲み間違い事故は服薬形態の変更を
C苑でも認知症の利用者の服薬を確認しようとしてトラブルが起きていますが、服薬後に利用者の口腔内を必死で確認している職員を見かけます。このように服薬管理が難しい利用者に対しては、医師に相談して服薬方法を変えてもらうようにした方が得策です。リバスタッチパッチのような肌に貼るだけで経皮吸収される抗認知症薬も開発され、服薬管理が楽になっています。経皮吸収の抗パーキンソン薬は、効能の持続が平均化するなどのメリットもあるといわれています。
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