◆誤薬の原因は夜勤明けでボーっとしていたこと

 特別養護老人ホームF苑では、毎月リスクマネジメント委員会を開いて前月の事故やヒヤリハットの件数などを確認し、事故防止活動の進捗状況について話し合っています。今月の委員会も先日の法人リスクマネジメント委員会に出席した施設長の報告から始まります。「先月の当施設のヒヤリハット件数は、法人の5つの特養の中で最低でした。来月は必ず挽回してください」と施設長からの報告があります。続いて、個別の事故に対するチェックをします。「誤薬事故が1件あり年間累計件数が5件となり、たった半年で前年度を超えてしまいました」と施設長から指摘がありました。対策を尋ねられた主任は「A職員とB職員が2件ずつ起こしており、2人には厳しく指導します」と答えました。施設長が「原因をもっと分析して対策を考える必要があるのでは?」と言うと、「3件は朝食時に夜勤明けの職員が起こしていて、事故原因は夜勤明けでボーっとしていたことです。食事介助の前には濃いコーヒーを飲むように言いました」と答えました。その後細かい分析が1時間続きました。

委員会は事故防止活動の成果のチェックの場ではない

効果が無い事故防止委員会の典型

本事例の事故防止委員会の運営方法は、良いものとはいえません。どの施設も利用者は同じではなく、ヒヤリハット件数を比べることは重要ではありません。誤薬事故は仕組みで防ぐ事故であり、対策はみんなで仕組みを考えなければなりません。職員個人の責任を追及しても、事故を減らす具体策にはつながらないでしょう。
このような事故やヒヤリハットの件数の報告・チェックの委員会ばかりでは、本当に必要な事故防止活動には繋がらないでしょう。次のような委員会は見直す必要があるでしょう。

《こんな委員会はダメ》
①統計集計委員会➡施設ごと、職場ごとに事故件数やヒヤリハット件数を集計するだけの委員会。
②報告委員会➡管理型委員会で事前に報告書を求め、委員会の場でも改善策などを報告させる。
③吊し上げ委員会➡成績の悪い施設の管理者や役職者の責任を追及する委員会。
④サークル活動委員会➡「若手の自主性を活かす」と、権限のない若手職員にすべてを考えさせる。

現場の活動に役立つ委員会とは

事故防止委員会やリスクマネジメント委員会の目的は何でしょう?答えは簡単、事故防止活動の成果を上げるためにあります。では、どのような委員会を運営すれば事故防止活動の成果につながるのでしょうか?事故を防止するのは現場であり、まず“現場の役に立つことは何か”を考えることが重要です。例えば、毎月各職場から成功事例を募集して、ニュースを発行している委員会があります。これは、事故防止ノウハウの共有を図る意味で、大きな役割を担っています。
 また、危険箇所総点検など現場に役立つ取組みを提案して、共通課題に取り組む体制を作っている委員会もあります。委員会では外部のコンサルタントなどから、現場をサポートする取組みを教えてもらい、新しい取組のチャレンジを提案して全体をけん引しています。この施設では、家族クレームと実際の対応事例をサーバーにアップして、常時検索・閲覧できるようにしました。現場をサポートするのが委員会の役割であり、もっともっと現場の取組みに役に立つことを真剣に考えなければなりません。個別事故の原因分析は現場でやることであり、委員会は原因分析と再発防止策の検討方法を現場に提案すれば良いのです。

※本ニュースを無断で複製または転載することを禁じます。

監修 株式会社安全な介護 山田 滋

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