事例

再婚同士のAさんとご主人Xさん。昨年亡くなったXさんには、前妻との間に一人娘がいましたが、娘さんが小学生の頃に離婚した後は、一度もお会いしておらず疎遠になっていた、とAさんは聞かされていたそうです。娘さんのことを気に掛けていたものの、どこに住んでいるのかも分からず、結局、連絡を取る手段がないままXさんは亡くなりました。
Xさんの遺産は預貯金が少々と、現在Aさんがおひとりで住んでいるご自宅です。遺言は遺されていませんでした。預貯金はすべて引き出せたこともあり、相続手続(家の名義変更)は進めずにいました。一瞬、このまま何もしないでおくことも考えましたが、Aさんにも前夫との息子がおり、Aさんに万一のことがあった際には、Xさんの前妻との間の娘と、Aさんの前夫との息子とで相続の話をしなければならないことになる可能性に気付き、息子に迷惑をかけないためにも、どうにか今回の相続手続を進めたいと思い、当センターに相談に来られたのです。

結果

相続人調査をして、戸籍をたどっていくと戸籍の附票で娘さんの現在の住所が判明しました。
そこで、Aさんから娘さんへお手紙を出しました。お父さんのXさんが亡くなったこと、連絡先が分からず葬儀に呼べず申し訳なかったこと、晩年のXさんの様子、Xさんが娘さんを気に掛けていたこと、そして相続について協力してほしいことを書き綴りました。また、現在住んでいる自宅は引き継がせてほしいとご自身の意向も書き添えました。
娘さんの心情を思えば、いきなりのお手紙に相当驚かれるに違いなく、また、一方的なお願いで気を悪くされるのではないかと気がかりでしたが、ご協力くださるとのお返事をいただけました。娘さん自身も同じような遺産分割の経験をされており、状況を理解して頂けたようです。そして、ご希望通り、ご自宅を含め、全ての遺産をAさんが引き継ぐことで話がまとまりました。
娘さんのご協力で無事に相続登記が完了しましたが、もし遺産分割協議が難航すれば、義務化されている相続登記も進めることができないところでした。遺言があれば、そのような心配は無用となります。また今回、Xさんが気に掛けていたことを娘さんに伝えることができたことは良かったのですが、遺言があれば付言事項を使ってXさんから娘さんに直接想いを伝えることもできたと思います。

●法定相続人の順位

第一順位の法定相続人は子(直系卑属)ですが、この「子」は、現在婚姻関係にある夫婦間の子だけでなく、前妻(夫)との間の子、婚姻関係にない男女間から生まれた子、普通養子に出た子、養子縁組した子も含まれます。相続に関して法律上の差異はありません。従って、今回のケースのように、後妻のAさんとXさんと前妻との間の娘さんが、相続においては、普通の血縁上の親子と同じように扱われます。

遺言書の付言事項

遺言書がない場合、相続手続きをするには遺産分割協議が必要となりますが、血縁関係にない親子間では場合によって協議が難航するおそれがあるため、そうした事態を避けるためにも遺言書を書かれることをお勧めします。
なお、記載内容として法律上の効力が生じるのは、法定遺言事項(身分や財産、相続に関すること)に限られ、その他は法的な効力は生じませんが、「付言事項」として、自由に記載できます。法定遺言事項だけでは伝わらない、遺言者の遺言を作成するに至った心情や相続人への感謝の気持ちなどを書くことが多いようです。
特に遺言書の内容が一部の相続人にとって不公平な内容である場合には、付言事項を書くことで、その相続人の納得や理解が得られやすくなり、円滑な手続きとなる場合があります。遺言書を作成される場合は、付言事項も検討してみることをお勧めします。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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