事例

お兄様のXさんが亡くなられたとして、Aさんがご相談にいらっしゃいました。
Aさんのお話によると、ご兄弟は他に妹のBさん、弟のCさんの3名とのことです。すぐに戸籍を取り寄せ確認すると、戦時中に亡くなっているはずの一番上のお姉様Yさんが、今も戸籍上では生存していることになっていました。戸籍に死亡の記載が無いとなると、Yさんを外して相続手続はできません。
市役所の担当課に出向き事情を話したところ、「医師の死亡診断書」、または「死亡した事実を証明できる資料」の提出、それができない場合は、家庭裁判所で「失踪宣告」をうけるようにとの回答でした。当然、戦時中の死亡についての死亡診断書は取付け不可能です。また、ご兄弟間で「家庭裁判所の手続はしたくない」と、失踪宣告もしないご意向で一致していました。そこで最終的に、お墓の中の納骨壷に俗名または戒名、死亡の年月日と檀那寺の過去帳の記載の確認を提案しました。

結果

早速、相続人3人で納骨壷をお墓から出して調べると、Yさんの俗名、死亡年月日《昭和20年3月5日》、檀那寺《戦災で焼失》が記載されており、それらを写真に撮り市役所へ提出すると、法務局の担当者が納骨壷を確認し、その確認書類を市役所に届け、家庭裁判所の手続を経ることなく、死亡から65年経ってようやく戸籍にYさんの死亡の事実が記載されることとなりました。 こうして、無事にご兄弟3名での相続手続を行うことができたのでした。
当時は戦時中の混乱期であり、市役所の建物焼失と戸籍の滅失、戸籍や届出書類の管理ができなかった例は意外と多いものです。先祖を大切にする心が、助けてくれた事例でした。改めて供養の大切さを実感しました。

戸籍とは

戸籍は人の出生から死亡に至るまでの親族関係を登録公証するもので、日本国民について編製されます。親族関係や、相続・扶養・親権等の権利義務関係を証明するものでもあります。

●相続手続における戸籍の役割

相続手続を行うに際し、相続人を確定させる為に、被相続人の死亡から出生までの期間を網羅する戸籍が必要となります。通常、戸籍に記載される者は現行法では一の夫婦とその子どもまでである為、子供が結婚した場合は別の戸籍が編製されますし、戸籍の本籍地を他の市区町村に転籍することでも、新たな戸籍が編製されます。その他、被相続人に何ら変更の事情が無くても、法律や命令により従前の戸籍が新しい戸籍に編成されるなど、自動的に編成されることもあるのです。そうして戸籍が編製された新しい戸籍には、すべて移記されるわけではない為、死亡の記載のある被相続人の戸籍だけでは網羅できません。すなわち、相続手続を行うには、死亡直前の戸籍だけでなく、死亡から出生まで遡ったすべての戸籍を取得する必要があるのです。

戸籍の広域交付

これまで相続人は、被相続人の戸籍を請求するには、被相続人の本籍地のある市区町村役場に直接請求するしかありませんでした。地方に本籍地がある場合は、郵送等で請求をしなければならず、戸籍を取るのは実に煩雑な作業だったのです。しかし、このような事情を受け、今般、戸籍制度が改正され、令和6年3月1日から、戸籍の広域交付が始まりました。本籍地以外の市区町村の窓口でも、戸籍(戸籍証明書・除籍証明書)を取得できる制度です。ご本人自身が窓口に出向く必要があり、また、傍系(兄弟姉妹)の戸籍が取れないなどの欠点や、まだ開始されたばかりで役所ごとにルールもまちまちのようですが、これまで多くの方を悩ませてきた手続きが一つ簡素化される画期的な制度改正と言えそうです。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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