事例
AさんBさんのご兄弟が、お父様のXさんの相続相談に来られました。お二人の実母は既に亡くなり、Yさんを後妻として迎えたため、お父様の相続人は、後妻のYさん、長男のAさん、二男のBさん、Yさんとお父様の間に生まれた長女Cさんの計4人です。年の離れた妹Cさんも今は成人しています。主な相続財産は、実家と預貯金です。
YさんとAさん、Bさんとの間に養子縁組はされていませんでした。お父様の財産をYさんが受け継ぐと、その財産は将来Cさんにしか相続されません。しかし、AさんとBさんはその事情も分かった上で、献身的に最期まで面倒を見てくれたYさんが多く財産を相続するのは当然だと考えていました。ところが、事態は急変します。YさんがXさんの書斎を整理すると、封をした遺言書らしきものが出てきたというのです。
結果
自筆で書かれた遺言書は勝手に封を開けて中を確認できないため、家庭裁判所で「検認」という手続きを受ける必要があります。検認当日、相続人の皆さんが裁判所に集まり、内容を確認すると…。「長男Aに財産の6/12、妻Yに3/12、二男Bに2/12、長女Cに1/12を相続させる」という割合を示した遺言でした。
本来遺言書があれば、遺産分割協議をすることなく、故人の意思に従いスムーズに手続きが進められるのですが、具体的な財産の分け方が書いておらず、そもそも1個しかない実家をどう分割するのか、その方法が分かりません。それにYさんは今まで面倒を見てきたのに、長男のAさんより少ない扱いを受けることに嘆き、Bさんは同じ兄弟なのにAさんよりも差が大きいことに悲しみ、そしてAさんは何も面倒を見てないのに、長男というだけで過大に扱われることに戸惑い、手続きが全然進まないことになってしまいました。結局、相続人全員の合意の上で、協議を行い、遺産分割方法を決定しました。
遺言を作成する場合は、特定の財産を誰に相続させるという指定をした方がスムーズに手続きが進められること、遺言の内容が遺された家族の思いと異なる場合は戸惑いや混乱が生じる場合があるので、可能なら生前の話し合いが望ましいことを改めて感じた案件となりました。

遺贈の種類や注意点
●遺贈とは
遺言によって、自己の財産を無償で他人に与えることを遺贈といいます。その与え方は、遺産の全部または何分の一という割合で決めることもできますし、この土地とか、あの株式とか、特定の財産を指定することもできます。前者を包括遺贈といい、後者を特定遺贈といいます。遺贈の相手方のことを受遺者といい、相続人または相続人以外の第三者、いずれでも可能ですが、相続人に対して財産を遺す場合には「相続させる」旨の遺言を遺すことが一般的です。「特定の財産」または、「すべての財産」を「特定の相続人に相続させる」旨の遺言は、遺言者の別段の意思がなければ、遺贈ではなく、遺産分割方法の指定(特定財産承継遺言)として扱われます。
●遺贈の種類
包括遺贈を受けた者(受遺者)は、相続人と同じ権利義務を負うため、プラスの財産だけでなく債務などのマイナスの財産もその割合分だけ承継することになり、放棄も3か月以内に家庭裁判所の手続きが必要です。また、遺産 分割協議書を作成する場合は、包括受遺者は遺産分割協議に参加する必要があります。一方、特定遺贈は取得する財産が特定されているため、包括遺贈と違い遺産分割協議や負債を負う必要はなく、放棄する場合は相続人に対して意思表示をすれば可能で、特に期限はありません。
●遺贈の注意点
相続人全員の同意があれば、遺言書の内容と異なる遺産分割協議を行うことは可能です。遺言執行者には遺言の内容を実現する権利と義務がありますので、遺言執行者がいる場合はその同意も必要です。また、相続人以外の受遺者がいる場合は、その権利を、前述した方法により、放棄してもらう必要があります。
執筆者情報
事例発行元:相続手続支援センター事例研究会