事例

10年前に他界されたお父様のご相続について、長女のAさんがご相談に来られました。
お父様のXさんが亡くなって10年経つものの、地方にある実家の相続登記が終わっておらず、相続人が利用しない田や畑、場所が不明の山林、雑種地を多く所有していることについて、特に、配偶者であるお母様が悩んでおいでとのことでした。最近になって親戚が何人も亡くなり、ますます不安に思われているご様子のお母様は、毎日のようにAさんに連絡してくるそうです。その中で、登記について同じことを何度も繰り返して尋ねられるので、「何とかして母を安心させてあげたい」と思いながらも、忙しさのあまりに行動する事ができずにいたということです。
Aさんのご兄弟は5人で、全員離れて暮らしていることも、手続きが後回しになってしまった原因のようでした。

結果

まずはAさんに相続登記の流れを説明しました。遺言書がないため、誰が不動産を相続するのか、お母様を交えた兄弟姉妹で遺産分割協議をする必要があることをお伝えしました。すると偶然にも、近々、兄弟姉妹5人が顔を揃える機会があるとのこと。「母を安心させるため、早速、兄弟で話し合ってみます!」と、その日はお帰りになりました。
数日後に5人の兄弟姉妹全員が、お母様の気持ちを理解し、遺産分割協議をして相続登記をすることに合意したと連絡がありました。
結果的に、全ての不動産を、遠方に住む長男が相続することとなったのですが、それからの手続きは相続人皆さんのご協力もあり、とてもスムーズに進みました。
当初は不安そうにしていたお母様も、手続きが進むにつれて表情も和らいでいき、全てが終了した時にはとても安堵されていたそうです。
Aさんは「本当にさっぱりしました!今やらないと、ずっとこのまま進まなかったと思います。念願の相続登記がスムーズに出来ました。ありがとうございました。」と満面の笑顔でご報告くださいました。

相続登記が義務化されることになった背景とこれから

●これまでの相続登記

これまで、不動産の所有者に相続が発生しても、相続登記は義務化されておらず、また、登記申請をしなくても相続人が不利益を被ることは少なかったため、相続をした土地の価値が乏しく売却が困難である場合には、それを上回る費用や手間を掛けてまで、積極的に登記申請をしようとしない人が少なからずありました。その結果、本来は遺産分割協議を行い、誰が相続するかを決めなくてはいけない土地について、相続登記が行われないまま数次に相続が繰り返され、共有者が増え続けていき、年月を経て、所有者不明な土地や建物が増加したと考えられています。

これからの相続登記

国はこの所有者不明土地問題の解決策として、民法や不動産登記法の改正を行いました。令和6年4月1日から相続登記が義務化されます。新法では、不動産を取得した相続人は、所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記の申請をすることを義務付け、正当な理由がないのに、その申請を怠ったときは10万円以下の過料に処するとしています。令和6年4月1日までに発生した相続についても適用されます(その場合の履行期間は施行日から3年間)。万が一、3年間で遺産分割の話し合いがまとまらない場合についても、いくつか対応策はあります。
今回のケースのように、遺産分割がまとまらないというのではなく、相続人が多忙、手続きが煩雑だからという理由で、相続手続を後回しにしているケースは多く散見されます。登記義務化に備えて、過去の相続で登記が適切になされてきたか、ご心配な方は、法務局に行って、ご自宅やご実家の登記を確認されることをお勧めします。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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