■インフルエンザウイルスは湿度に弱い?
 特養老人ホームさくら荘では職員がインフルエンザに感染する例が増えてきました。昨年までは新型コロナ対策に注力していましたが、今年はインフルエンザの対策も必要になってきました。施設では、例年11月になると家庭用加湿器がフル稼働しますが、今年も80台の加湿器を稼働し始めました。1カ月くらい経過した頃、昨年入社した職員から、「1日3回の加湿器の給水作業で腕が腱鞘炎になった。給水作業をやりたくない
」と申し出がありました。他の職員も重い給水タンクを居室に何度も運ぶことに疲れていたため、同調する職員も出てきました。施設では、加湿器の給水に対する電気代や人件費などのコストを計算し、法人に申請して業務用加湿器の導入に踏み切りました。結果、職員はこれまでの感染対策に翻弄されず、ケアに専念できるようになりました。

インフルエンザウイルスは湿度の影響を受けない

■「インフルエンザが湿度に弱い」は間違い!

1961 年G.J.Haperによって、「高湿度下であればインフルエンザウイルスは長時間生存できない」という研究成果が報告されたことにより、“インフルエンザは湿度に弱い”と考えられてきました。
しかし、2018年6月7日に「Journal of Infectious Diseases」に掲載された論文では、高湿度下でもインフルエンザウイルスの感染力は弱まらないことが判明しました。しかし、実際には、部屋を加湿することでインフルエンザの感染率は下がります。なぜでしょうか?

■加湿の感染予防効果は喉の粘膜が潤うから

インフルエンザやコロナウイルスは上気道の粘膜から細胞に侵入することで感染します。上気道の粘膜は粘液に覆われておりウイルスはなかなか細胞に侵入できませんが、乾燥して粘液が少なくなると侵入しやすくなります。
つまり、加湿して上気道の粘液を豊富にすることでウイルスが細胞に侵入しにくくなり、感染予防の効果があるのです。また、マメに水分補給をしたりお茶うがいなどで喉を潤すと、同様に粘膜が保護されて感染対策効果があがります。

■家庭用加湿器では効果は低い

 では、本事例のように職員が1日3回も給水する家庭用加湿器は、施設で使うべきなのでしょうか?実は家庭用加湿器は加湿量が少なく、効果があるとされる40%の湿度を保つことは難しく、効果は限定的と言われています(東京都府中保健所の調査レポートによる)。また、ある調査では、1台の加湿器の1シーズンのメンテナンスコストは1台約5万円と言われ、本事例の施設では、加湿対策に400万円かけていることになります。職員の労力やコストなどを考えれば、確実に40%の加湿が得られる業務用加湿器に切り替えた方が賢いといえるでしょう。

■ミスト式加湿器はレジオネラ感染症の原因に

 2018年1月に、大分県の高齢者施設で入所者3人がレジオネラ菌による肺炎を発症し1人が亡くなり、居室の加湿器からレジオネラ菌が検出されました。厚労省は加湿器の衛生管理を徹底するよう告示しました。しかし、スチーム式の加湿器では細菌が繁殖し空気中に散布されることはありませんが、ミスト式(超音波式)では細菌が繁殖し空気中に散布される恐れがあるため、タンクや機器の衛生管理の徹底が必要なのです。

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監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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