事例

ご相談者のAさんは、「何をどうしたらよいかわからなかったし、税金を払うほどの財産はないので…」という理由から、一年前に亡くなられたお父様Xさんの相続手続に、何も手をつけていませんでした。相続税は相続財産が基礎控除を超えた場合に申告が必要となりますが、税務署からもこれまで特に何も通知は来ていないようです。
初回のご面談でお聞きした内容では、相続税の基礎控除額を超える見込みは薄く、相続税申告不要で手続はスムーズに進んでいくと思われました。しかし、事前調査を進めていくと、意外な財産が次々と見つかっていきました。

結果

まず、登記事項証明書を取得して不動産を確認しました。すると、「共同担保目録」には課税明細にはない不動産の記載があり、Aさんが把握していない共有名義の土地や建物があることが発覚しました。次に、銀行口座も、手元に通帳があるのとは別の支店に口座があること、また、満期積立型の保険があることが分かりました。
さらに、Aさんのお母様であるYさん名義の通帳が、実は、Xさんの貯蓄用だった…など、当初は思いもよらなかったXさんの相続財産が次々に判明していったのです。
基礎控除額を超えて相続税の申告が必要になるかと思われましたが、残高証明書もそろえさらに調査・確認をしたところ、結果的にはギリギリ基礎控除を超えない、ということがわかり、相続税納付期限後の申告という事態は免れることができました。Aさんは「たとえ母名義の口座でも、父の財産を預けていたのであれば、相続税の計算にいれなければいけないことも知りませんでした。色々調査していただき、おかげで税金の心配がないことがわかって本当に良かったです。」とおっしゃっていました。
相続税申告の要否を「思い込み」で判断して、申告期限を過ぎてしまうと、税金は加算され、軽減の特例等を利用することができなくなるおそれがあるなど、非常に危険です。まずは専門家に相談をしていただくことが有用です。

●相続税の申告期限

相続税の申告及び納税は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内にしなくてはなりません。申告期限後に申告書を提出することを「期限後申告」といい、そうなった場合には、本来の税額に加え、期限を過ぎたことに対するペナルティとして、無申告加算税や延滞税が原則かかります。うっかりして期限が過ぎてしまった場合は、速やかに申告を行うことをお勧めします。

●相続税の申告等についての御案内

今回のケースでは、相続税の申告期限までに一度未分割の状態で申告し、調停成立後に更正の請求を行うという手間も生じました。そもそも、相続税の申告と納税は「相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に行う」ことになっています。たとえ、分割協議が長引いている・分割されていない、ということであっても、期限までにしなければなりませんし、申告期限が延びることはありません。万が一、遺産分割協議に時間がかかってしまい、期限内での申告ができない場合には、今回のケースのように、期限内に各相続人が法定相続分に従って財産を取得したものとして相続税の計算をし、申告と納税をすることになります。ただしその際は、小規模宅地等の特例や配偶者の税額の軽減の特例などの相続税の軽減措置の適用が受けられないことになりますので注意が必要です。

●共同担保目録

相続財産を調査する上で、不動産の登記事項証明書を取得する際には、共同担保目録付きのものを請求するといいでしょう。一つの債権を担保するために、複数の不動産に抵当権等の担保を設定することを共同担保といい、これが設定されている不動産の登記には、共同担保目録が備えられており、共同担保の目的となる不動産が一覧にまとめられています。そのため、被相続人が一つの債権に対して、複数の不動産に担保権を設定していた場合などは、目録を参照することで、他の不動産を所有していることがわかります。また、一戸建ての家を所有・担保権を設定する場合、通常は家や敷地だけでなく、隣接する私道の共有部分も共同担保としますので、私道の所有権を確認する際にも、共同担保目録は有用です。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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