■人格否定の精神的攻撃で遂に退職
 Dさん(69歳女性・要介護4)は、多発性脳梗塞による重度半身麻痺の利用者で週に4回デイサービスを利用しています。家では娘さんが介護をしていますが、専門学校の教師をしていて、いつも多忙の様子です。Dさんは3回の脳梗塞発作によって身体機能が低下していますが、認知症の症状は全くありません。利用を始めた当初から、スタッフの身体介護に不満があるようで、「アンタのやり方はダメよ!ヘタ!それでもプロなの?」と、大きな声で不満を漏らされていました。
その上、娘さんに「介護がヘタなひどい職員ばかりだ」と不平を言うため、そのたびに娘さんからデイサービスにクレームが入ります。一度スタッフがトイレ介助で転倒させそうになった時は、娘さんがデイサービスにやってきて「職員のMを呼んで!」とお怒りの様子で職員を呼びだし「アンタは学校で何を習ったの?デイなんか今すぐ辞めて勉強し直してきなさい!」と、1時間も執拗に説教をしました。止めようとする所長に対して「あなたが指導できないから私がしてあげてるの、黙っていなさい!」と一蹴してしまいました。その後も3回に亘って娘さんから執拗な攻撃を受けた職員のMさんは、ついにデイを辞めてしまいました。

カスタマーハラスメント対策はなぜ進まないのか?

■厚労省の対応は??

家族による職員へのカスタマーハラスメントは、感染対策の影響で一時的に鎮静化していましたが、再び激化している様子です。ところが、現場では理不尽な要求を暴力的・威圧的な手段で押し通すハラスメント行為者に対する対抗措置ができていません。なぜ対策が進まないのでしょうか?

それは、カスタマーハラスメント対策が介護事業経営者に任されているからだと考えます。ハラスメントによる労働者の被害が社会問題になり、セクハラ防止法やパワハラ防止法が施行され、事業者はその防止措置を法律で義務付けられ、その手順も明示されました。しかし、カスハラ防止法は今も法整備は整う気配がありません。つまり、経営者は自ら考えて防止対策を講じなければならないのです。

■対策の取り組み手順

では、カスハラ対策はどのように進めたら良いでしょうか?取り組み手順は次の通りです。

①カスタマーハラスメント防止への法人の体制構築(ハラスメントの定義を決める)
②カスタマーハラスメント防止の取り組みを周知(職員と利用者・家族)
③カスタマーハラスメントの実態調査と個別取り組み案件の把握
④ハラスメント行為の評価と個別案件への対抗策検討
⑤法的措置を前提とした個別案件への対抗

■カスタマーハラスメント行為の定義を決める

 防止対策を進める上で最初に直面する課題は、カスタマーハラスメントの定義を自ら決めることです。利用者や家族だけでなく職員にも「どのような行為がカスタマーハラスメントなのか」を分かりやすく明示しなければなりません。下の表はある法人様が作成した「カスハラの定義」です。職員にも意見を聞きながら作成したそうですが、かなりの時間を要したそうです。

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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