事例

以前、Xさんからお姉様のご相続でご相談をいただきました。高齢で独り暮らしの姉Yさんを自宅に呼び寄せ、姉妹二人で暮らしていたそうです。Xさんは若かりし頃、大手商社で経理をされていたというだけあって、Yさんの財産もきっちりと把握・整理されており、スムーズに手続きは完了しました。
それから3年近く経ち、Xさんのご長男Aさんから、「母が亡くなりました」とご連絡をいただき、再びお手続きをサポートすることとなりました。

結果

相続人は長男のAさんと長女Bさんです。お二人とも独立して暮らしていたため、相続手続を開始するには、まずXさんの財産を確認することから始める必要があります。
AさんはXさんからメモを預かっていました。メモには、ご自身の各銀行の口座番号と残高、証券会社の株式数などが記載されています。エンディングノートとしてまとめていたようです。また、そこには、AさんやBさんやその子(Xさんにとってのお孫さん)たちへ毎年、一定額を生前贈与で渡す計画が書かれていました。そして、そのメモの下の方に、合計額を計算したうえで、「これで相続税は不要」との文字がありました。
どうやらXさんは、ご自身の財産にYさんの相続財産も加わったことで、このままだと子供たちに相続税の負担をかけてしまうと思い、ご自身で相続税対策を検討し、実行されていたようです。Aさんたちにお尋ねすると、皆さんXさんのメモ通りに、贈与を受けていらっしゃいました。
贈与税には年間110万円の基礎控除があり、上手く使えば相続財産を減らして、相続税の軽減につながります。ただし、相続人に対する贈与は過去3年分は、相続財産に計上されてしまいます。そのことから、ご自身の財産は基礎控除以下となるよう対策を取ったものの、残念ながら、相続税の申告は必要ということになってしまい、Xさんにとっては、計算違いの結果となりました。

ポイント

相続税と贈与税

●贈与による相続税対策

 相続税を軽減させる対策としては、相続財産を減らすことが基本です。その主な方法として贈与があり、なかでも、子や孫に財産を「生前贈与」される方は多くいらっしゃいます。もっとも贈与には贈与税が課せられていて、夫婦・親子間の贈与であっても贈与税の対象です。もし、夫婦・親子間で贈与税がかからなければ、無限に贈与して相続税を免れることができてしまうからです。ある意味、贈与税は、相続税を補完する役割も担っていると言えるのです。


●暦年贈与の注意点

贈与税は、毎年1月1日から12月31日までに贈与を受けた財産の合計額に対して課税されます。贈与税を納めるのは贈与を受けた個人で、1人あたり1年につき110万円という基礎控除額があります。従って、それ以下であれば贈与税の申告は不要(暦年贈与)となり、大きい金額ではないにしろ、子や孫が5人なら、年間で一挙に550万円まで無税で財産を減らすができる計算になります。ただし、少額の贈与を複数人(例えば祖父母両方)から受けた合計が110万円を超える場合には、贈与税の申告が必要です。
 また、この暦年贈与の注意点は、贈与から3年以内に相続が発生(贈与を行っていた人が死亡)した場合、亡くなった日からさかのぼって3年以内の贈与は相続財産に加算されるため、相続税の節税にはならないという点です。なお、令和5年度の税制改正により、この「相続開始前3年以内」が「7年以内」に延びることになりました。2027年の相続開始分から段階的に延ばし、2031年の相続開始分から7年となります。この延長した4年間に受けた贈与については、100万円を差し引いて相続財産に加算されます。2024年1月1日以後に受けた贈与から影響が生じることになるので、注意しましょう。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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