事例

ご主人のXさんが亡くなったと、奥様のAさん・長男のBさんが相談にいらっしゃいました。Xさんの相続財産は自宅不動産や預貯金で、お金の管理は、税の支払いを含めて全部Xさんご自身が管理されていたそうです。そうした経緯もあり、「何から始めればいいかわからず一切合切お任せしたい」とのこと。念のため、遺言書の有無を確認しましたが、「主人は遺言書なんて書く人ではないです」という前提で、ご依頼を受けることになりました。
いざ、ご主人の相続手続を進めようとしていたところ、Aさんから、「弁護士事務所から、突如通知が来まして…」とご連絡が。電話口のお声は小さく、深刻なご様子です。早速、ご自宅にお伺いして、その通知を拝見しました。
弁護士からの通知によると、Xさんは弁護士に相談し公正証書遺言を作成していたようで、さらに死後認知をしたことが書かれていました。取り急ぎ、戸籍の記載を確認すると、なんと3名の方を認知しているではありませんか!
ご主人に他に子がいると知ったAさんはショックで手続きどころではなくなり、寝込んでしまいました。
そこで、先日同席されていた長男Bさんが先方の弁護士に話を聞きに行くことになったのです。

結果

Xさんがご自宅以外に持っていた不動産は、認知した3人が自宅としていることが判明しました。遺言書には、認知の記載と共に、その3名にその不動産を相続させる旨の記載がありました。なお、弁護士によると、被認知者3名は、「遺言通りに自宅を相続できれば、その他の財産に関しては遺留分を請求しない」意向を示しているとのこと。そうして、遺言書に記載のないXさんAさんのご自宅や預貯金についての遺産分割協議は被認知者の協力もあって速やかに進行し、すべての相続手続はすべて滞りなく完了しました。
しかし、Aさんは心が晴れないままです。さぞかし複雑で悔しい思いをされたことでしょう。『遺言での認知』は法律上認められている制度ですが、その影響の大きさをまざまざと見せつけられた事例となりました。

ポイント

婚姻関係にない男女間に生まれた子を非嫡出子といいます

●非嫡出子の認知について

 非嫡出子は、出産の事実により母親とは親子関係が成立しますが、父親とは「認知」といって、自分の子と認めることで親子関係が成立します。この「認知」は、認知者(父)が自らの意思で、戸籍法の定めに従って届け出をすることにより行い、届出が受理された時に成立します。
 また、遺言書に認知の事実を記載することでも認知を行うことができ、その場合は遺言者(認知者)が死亡した時点で認知が成立します(民法781条)。この他、認知を受ける側(子)が、裁判に訴えて認知を得るという方法もあり、これを強制認知といいます。これは、父の生存中はもちろん、死亡した場合でも、一定期間内にすることができるため、認知者(父)の死亡後に、遺言や裁判により認知が行われ、突如、親子関係が成立することがあるのです。


●認知による相続手続への支障

認知により、非嫡出子との間に父子の関係が生じれば、その子は相続権を持ちます。予期しなかった相続人が現れると、相続手続に大きな影響を与えます。遺産分割協議を行う際、当然のことながら、認知された子も父(認知者)の相続人として遺産分割協議に参加する必要が生じますし、認知により相続人の人数が変われば、法定相続分が変動することがあります。ちなみに、非嫡出子と嫡出子(婚姻関係にある男女間で生まれた子)との間で、法定相続分に差異はありません。このように、遺言で子供を認知するとトラブルになることが予想されます。できれば、遺言で認知をする際には、相続人間のトラブルを未然に防ぐような遺産の配分を指定しておくことが有用です。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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