事例

弟のXさんがお亡くなり、ご相談にいらっしゃったAさん。お姉様のBさんとAさんがご相続人とのことです。
相続財産は預貯金と不動産でしたが、当初、この不動産についてAさんもBさんも「相続したくない」とおっしゃっていました。なぜなら、Xさんが、いわゆる「原野商法」で購入した遠方の土地で、見たこともない不動産だったからです。
また、不動産の登記簿上の地目が「山林」となっていたこともあり、役所に煩雑な届出が必要になるのではないか、ということも心配されていました。

結果

たしかに、都道府県が策定する地域森林計画の対象となっている森林を相続した場合、「森林の所有者届出制度」に基づいて、所有者の届出が必要になります。そこで、不動産の調査のために、固定資産の名寄帳を取り寄せ確認すると、現況は「山林」ではなく「雑種地」となっていました。
さらに市役所に問い合わせてみると、今回の土地については森林に該当せず「届出不要」との回答でした。
後日、Aさんの息子さんが現地を訪れ実際の土地を確認したところ、将来的に自分がこの土地を相続したいという意向を示したこともあり、今回の遺産分割では、Aさんが不動産を相続することとなりました。当初は「売れない土地をもらっても仕方ない」と誰もが強く思っていましたが、Aさんの息子さんの後押しもあり、無事に相続手続が完了しました。
登記簿の情報だけではわからないことも、お手伝いさせていただくことにより、悪い場所ではないことが判明したり、
今回のような森林法の届出などの要否がわかる場合もあります。
また、相続したくない不動産であっても、手続きを先延ばしにすると次の相続が発生して、権利関係が複雑になり、処分が難しくなる可能性があります。今後、不動産の相続登記が義務化されますが、一方で、国が不要な土地を引き取ってくれる制度も新設されています。

ポイント

不動産の相続については専門家に相談をして現況を確認し、手続きを先延ばしにすることなく進めていくことが大切です。

●土地の評価

相続税における土地の評価は、地目別に評価方法が異なります。この地目は、登記簿上の地目に関わらず相続発生時の現況により判断されます。登記簿上の地目が「山林」であっても、アパート敷地であれば「宅地」として評価されることになります。
また、原則、相続で森林の所有者となった場合は、森林法により90日以内に市町村の長へ届出が必要となり、農地を相続した場合も、農地法により農業委員会宛の届出が義務付けられています。土地を相続する場合、各種法律に定められている届出等をしないと過料の制裁が加えられる場合もあるため、注意が必要です。


●相続土地国家帰属制度

相続で望まない土地を取得したものの手放したいと考える方が増え、そうした人たちの負担感が、管理の不全化を招き、近年問題となっている「所有者不明土地」の発生の一因になっています。また、そのような土地を未然に防止ないしは解消するために、相続や遺贈により土地の所有権を取得した相続人が、法務大臣の承認で土地を手放して国庫に帰属させることを可能とする『相続土地国庫帰属制度』が創設されました。(令和5年4月27日施行)
ただし、どんな土地でも国が引き取ってくれるわけではありません。申請ができない土地・申請しても承認されない土地の要件は法律により定められているので注意が必要です。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

こちらの記事もおすすめです