事例

お姉様のXさんを亡くされたAさんよりご相談をいただきました。Xさんは結婚されていましたが、お子様はなく、ご主人に先立たれた後、ご自身の相続対策として、Aさんと相談して、Aさんの妻Bさんと養子縁組をされました。ご自身のご兄弟が多く、このままでは相続が複雑になると想定しての対策で、Xさんの相続人はBさん一人となりました。

Xさんの相続財産は金融資産が主でしたが、相続税対策として、亡くなる2年前と1年前に甥のCさんら3人に100万ずつ贈与していました。Aさんによると、Xさんが相続税対策として、贈与税の申告義務が生じない範囲で行ったということでした。

また、Xさんはご自身が掛けていた生命保険契約をCさんに贈与するつもりで、保険の契約者をCさんに変更していました。被保険者はXさんで、契約者・受取人がCさんです。Xさんが亡くなったので、死亡保険金をCさんが受け取っています。

結果

相続税は相続財産が基礎控除の額を超える場合に申告する必要がありますが、Xさんの場合、相続人がBさん1人しかいないので、相続税の基礎控除は低くなります。相続税の負担を軽減する為、Xさんは生前贈与により相続財産を減らすという方向で、相続税対策を行っていたようです。

しかしながら、生命保険に関して、契約者をCさんに変更しても、保険料負担者がXさんであることには変わりがなく、贈与とはなりません。Cさんは死亡により死亡保険金を受け取っているので、相続税の納税義務が生じます。しかも、Cさんは法定相続人ではないので、生命保険の非課税枠の適用もありません。

また、そのCさんが3年以内に受け取った贈与財産(2年間で200万円)については、相続財産に計上されてしまいます。

そしてCさんの場合は、相続税が2割加算となります。相続税対策として講じた策が、却って裏目に出てしまい、Cさんまで相続税を支払うこととなってしまいました。

ポイント

保険金受け取りの注意点

生命保険契約において、契約者を変更した場合、それまで払ってきた保険料相当額を贈与したように見えますが、その時点では保険金の支払いは発生しておらず、贈与とはなりません。相続税法上、保険金受取人が保険料を負担していない時は、保険料の負担者から保険金等を相続、遺贈又は贈与によって取得したとみなされ、保険料を負担していない保険契約者の地位は相続税等の課税上は特に財産的に意義があるものとは考えられていないからです。(※変更後に解約して解約返戻金を受け取った場合には贈与税が課税されます)被相続人の死亡によって取得した生命保険金で、その保険料を被相続人が負担していたときは、死亡保険金は相続税の課税対象となります。この死亡保険金の受取人が相続人である場合、受け取った保険金の合計額が非課税限度額(500万円×法定相続人の数)を超える時に、その超えた額が相続税の課税対象となります。但し、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税枠の適用はありません。Cさんは相続人ではない為、非課税枠の適用を受けられませんでした。

そのため、今回のようなXさんからCさんへの契約者変更は贈与とはならず、相続税対策として意味を持ちません。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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