事例紹介

小学2年生の男の子C君は、毎週土曜日にお父さんに連れられてプール教室に通っていました。ある日、お父さんは仕事のため、C君は一人で行くことになりました。お父さんは、慣れてきたから大丈夫だろうと思い、「まっすぐ歩いて公園の角を右に曲がって、最初の信号を渡ったら、右にまっすぐ行くんだよ。」と伝え、C君もお父さんの言うことに対し「分かった」と理解したようでした。当日、時間になってもC君はプール教室にやってきません。「迷子になったのではないか?」と心配になったスタッフが探し回ったところ、交番のお巡りさんが泣いていたC君に声をかけていました。

日常生活で大切な「視空間認知」

「認知機能」という言葉、最近よく耳にしませんか?人は、五感(見る、聞く、触れる、匂う、味わう)を通して、外からの情報を得ます。そして、その情報を頭の中で整理し、計画し、実行に移します。このように様々な結果を作り出していく過程で必要な能力が、「認知機能」です。

では、「視空間認知」とは何を意味するのでしょうか?それは、「見る」ことによって得られた情報を処理し、ものの位置、向き、奥行き、空間の全体的なイメージをつかむための機能です。私たちは、この「視空間認知」によって日々の生活が成り立っています。

視空間認知能力が弱いとどうなるの?

視空間認知能力が弱いと、日常生活だけでなく学習面やスポーツの場面においても難しさが出てきます。
例えば・・・

・迷子になりやすい・探し物が見つけられない・文章を読み飛ばしてしまう
・キャッチボールができない・真似するのが苦手

視空間認知能力の弱さは、視力だけが問題ではありません。視力は生後間もなく獲得されますが、視空間認知機能は様々な経験を通して発達の過程で養われるものです。そして、視力のように数値として表すことができず、本人もその状態でずっと生活しており、他の見え方と比較できないため見え方の偏りに気付くことが出来ません。

どうして迷子になったの?

目的の場所に向かうには、「自分がどこにいて、どの方向を向いているのか」を察知することが必要です。そのためには、 「方向や距離、空間の広がりや大きさを捉える力」、つまりは視空間認知能力が必要です。では、なぜいつも通っていた場所にも関わらず、C君は迷子になったのでしょうか?それは、いつも「お父さん」という目印を頼りに歩いていたからです。C君はいつもお父さんに連れられ、周囲の景色をあまり気にすることなく歩いていたのかもしれません。そして、お父さんは迷わないように道順は教えましたが、言葉だけで道順を伝えたこともC君を混乱させてしまった原因かもしれません。

迷子にならないためには?

視空間認知能力を改善するトレーニングも大切ですが、まずは子どもが困らないような手立てを一緒に考えましょう。

周りの景色を一緒に見る
普段大人と一緒に歩いている時に、公園やお店などの分かりやすい目印を見る習慣を子どもにつけさせましょう。

分かりやすい地図を持たせる
言葉だけで伝えても、それを記憶し空間をイメージすることは子どもにとって難しいことです。目印がわかる地図を持たせると、道順を思い出すきっかけになります。

人に伝えられる練習をしておく
本当に困った時に、「自分がどこに行きたいのか、何に困っているのか」をしっかりと大人に伝えられる練習をしておくことも必要です。

 

迷子の原因は空間の「見えづらさ」が原因かもしれません。
「見えづらさ」に気付くとともにそれを補う手立てを考えましょう!

執筆者情報

株式会社東京リハビリテーションサービス
言語聴覚士 堀川 由樹子

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