事例
お父様(Xさん)がお亡くなりになったということでAさんがご相談にいらっしゃいました。お話を伺うと、Xさんがお住まいであった実家の土地は、Xさんのお父様Yさん(Aさんの祖父)名義のままになっているかもしれないということでした。早速、登記を確認したところ、それよりも前、Yさんのお父様のZさんの名義のままになっていました。Zさんは戦前に亡くなっています。
結果
なぜ今までお手続きしなかったのかお伺いすると、「父も、土地が祖先の名義のままだと知っていたようですが、固定資産税は支払っていたし、役所からも何も言われなかったので、そのままにしていたようです。」さらに、「相続人を辿って多くの人から遺産分割協議書をもらうのは大変だと聞いたので、手続きを促しませんでした。」ということでした。
相続手続を放置し、時間が経過してしまうと、相続人が増えてしまい手続きが大変になる場合があります。多くの相続人に連絡を取ることさえ一苦労ですし、ましてや遺産分割の同意を取り付けるとなると多くの困難が待ち受けています。
しかし、中には「例外」があります。
旧民法が適用されていた時代には「家督相続」という制度がありました。昭和22年5月2日までにお亡くなりになった方で、戸籍を確認した際に「家督相続」である旨が確認できれば、その戸籍謄本だけで手続を進めることができます(登記原因は「家督相続」)。その場合は、遺産分割協議書の作成や署名・押印等をお願いする手間がなく名義変更ができるのです。
早速戸籍を取得して確認をしたところ、Zさんが亡くなられた際、ZさんからYさんに「家督相続」されていたため、その「例外」に該当し、ZさんからYさんへの名義変更は簡単に行うことができました。ただし次の代のYさんからXさんへの相続については現在の民法が適用されるので、通常通りYさんの相続人全員で遺産分割協議をすることとなります。幸いXさんのご兄弟は少なく、Yさんの相続についてもXさんの相続人の他に2人しか増えることがなかったため、心配された程時間を掛けずに手続きを終えることができました。
ポイント
旧民法と「家」制度
現在の民法は昭和22年の民法改正により施行されたもので、そのもとは、明治29年に公布された旧民法です。旧法は「家」制度に基づき、戸主の所有する家の財産は、次の家督相続人に一括承継されるという、家督相続の制度が定められていました。男系嫡子への承継を目的としており、原則として配偶者にも相続権はありませんでした。戦後、新憲法下で、「家」制度は廃止され、現在の民法では、配偶者は常に相続人となり、他に血族相続人がいる場合は共同して相続人となるとされました。
時代ごとに見直される民法
その後、社会の変化に伴い、民法の相続編についても、改正が重ねられています。昭和37年には、第一順位の相続人を子とし、代襲相続の規定が変更されるなどの改正がありました。昭和55年には、配偶者の相続分引き上げ(1/3から1/2へ)や寄与分の創設など、世論を意識した改正がなされました。最近では、最高裁で民法の規定が違憲だとする決定がなされたことにより、非嫡出子の相続分を嫡出子の相続分と同じとするなどの改正が行われています。このたび、昭和55年の改正以来の大幅な見直しが行われます。社会情勢の変化に対応するものであり、残された配偶者の権利保護や、遺言利用の促進、相続をめぐる紛争の防止等の方策が盛り込まれています。
執筆者情報
事例発行元:相続手続支援センター事例研究会