事例

Aさんから、お父様のXさんが亡くなられたと、相続手続のご相談をいただきました。お母様は10年以上前に亡くなっており、相続人はAさんと実姉Bさんの二名です。

AさんBさんお揃いの上でお話を伺うと、相続財産はご自宅不動産と預貯金とのこと。かねてよりAさんがご両親と同居していたことから、ご自宅をAさんが取得されることにBさんは異論ありません。ただ、不動産の価値に比べると、預貯金が極端に少ないため、預金はBさんが取得するとしても、AさんからBさんに多少でも代償金を支払うかどうかを、話合って決めていただくこととなりました。

結果

その中で、お母様の相続の話になりました。その時は税理士に相談して、主な預金はAさんが、Bさんは住んでいる自宅の敷地を、それぞれ相続したとのことでした。

念のため、その時の不動産名義を確認すると、Bさん曰く、お父様名義だったとのこと。つまり、お母様の相続とは関係なく、お父様から生前贈与を受けていたのです。
また、税理士が関与していたとすれば、「相続時精算課税制度」を適用していた可能性があります。この制度は、父母や祖父母から子や孫へ2,500万円まで贈与税を納めずに贈与でき、贈与者が亡くなった時に、贈与時の価額と相続財産の価額とを合計して、一括して相続税として納税するという制度です。
Bさんは「相続時精算課税」という言葉もご存知なく、税務申告したかどうかもはっきり覚えていらっしゃいません。

申告書の控え等もなく、さらには、その税理士は既に引退していて詳細はわからないとのことでした。そこで、Bさんのご自宅の地番をお聞きし、登記簿を確認すると、お母様が亡くなった年に贈与を受けていることがわかりました。
さらに、所轄税務署に照会をかけると、やはり、この制度を利用していたことが判明しました。このことから、今回の相続税申告の際に、相続財産に生前贈与の財産も加算して相続税を計算することになりました。Bさんは、お父様から先に財産を受けていたということを確認し、姉弟での話し合いの結果、Aさんからの代償金はなしで遺産分割が合意されました。

今回のケースは、生前贈与(相続時精算課税)を確認できたことで遺産分割協議がスムーズに運び、相続税申告漏れを防げたことが幸いとなった事例でした。

ポイント

相続時精算課税制度

注意点について

この制度の注意点は、生前贈与した分が相続発生時に相続税の対象額として加算される為、贈与の際は非課税でも、将来、相続税として課税される場合があるということです。また、この制度を一度選択すると撤回できず、同じ贈与者からの贈与について、年間110万円の贈与税の非課税枠となる「暦年贈与」との併用が不可となることも気を付けなくてはいけません。

制度適用後について

この制度の贈与者である父母又は祖父母が亡くなった時には、その相続税の計算上、相続財産の価額にこの制度を適用した贈与財産の価額(贈与時の時価)を加算して相続税額を計算します。計算の結果、相続税の納税を要しない場合には、遡って贈与税がかかることはありません。なお、2,500万円を超えた分の贈与には、贈与時に20%の贈与税がかかりますが、相続税を計算する際に支払った贈与税相当額は控除されます。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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