事例

お父様のXさんが亡くなり、自筆で書かれた遺言書をお持ちになってご長男のAさんがご相談にいらっしゃいました。Xさんが残した財産は、預貯金2,000万円とご自宅の不動産1,500万円でした。
Aさんのお母様はXさんが亡くなる5年前に亡くなり、相続人はAさんと弟のBさんとのことです。ずっとご両親と暮らしていてたAさんは、Xさんの介護もしてきました。一方、Bさんは葬儀には出てきたものの、それまでは滅多に実家に顔を出さず、ほぼ音信不通の状態でした。
そんなBさんから、「四十九日の法要も終わらないうちに、相続についての電話があったんです!」と語気を荒げるAさん。「今まで自分が親の面倒をみてきたのだから、弟には親の財産を渡したくない」という気持ちから、Bさんと言い合いになってしまい、「このままだと調停になってしまう」と思った矢先、遺品の整理をしていたときにXさんが書き残した遺言書を発見したとのことでした。

結果

まずは司法書士をご紹介して、家庭裁判所で遺言の検認の申立てをし、続けて遺言執行者選任の申立を行うことにしました。
遺言書には「私の財産をすべてAに相続させる」と書かれていました。
案の定、Bさんから遺留分の減殺請求はありましたが、言い争いはやめて、兄弟できちんと話し合いをし、その結果、遺留分の侵害分をAさんがBさんに現金で支払うことで合意し、その他の手続も無事に終わりました。
「相続には無関心だったおやじが、まさか自分のために遺言書を書いてくれていたなんて思ってもいなかったんです。おやじの気持ちがわかったからこそ、自分も意固地になることなく弟と話すことができたと思います。」
お父様への感謝をにじませるAさんに、遺された家族が揉めない為に遺言書を書く重要性を改めて実感させられた事例でした。

ポイント

遺言作成時に気を付けなければならない「遺留分」

遺留分とは

一定の相続人がもらうことができる最小限の額のことです。今回のケースでは、すべての財産をAさんに相続させるという遺言であっても、Bさんは相続財産の4分の1を遺留分として主張できます。すべてをAさんにというXさんの遺志が実現しないことになりますが、遺言書がなければ、AさんBさんによる遺産分割協議(遺産分割調停)で、法定相続分(2分の1)を軸に分割することになったかもしれないことを考えれば、Xさんの遺志は反映されたといえるでしょう。

相続法の改正に伴う変更

今年の7月1日から施行された相続法の改正では、この「遺留分」についても大きな変更がありました。改正前の民法では受遺者又は受贈者は、原則、減殺された遺贈又は贈与の目的財産を返還しなければならない(目的財産は共有状態となる)とされていましたが、また、目的財産を受遺者等に与えたいという遺言者の意思を尊重すべきだとの考えから、目的財産を返還するのではなく、「遺留分侵害額に相当する金銭の支払いのみ」を請求できることとなりました。なお、直ちに支払えない場合は裁判所に支払期限の猶予を求める事も可能です。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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