事例

Aさんは、ご主人のYさんと2人家族でした。
ご主人のお母さんは既に亡くなられ、お父さんのXさんは一人暮らしをしていましたが、転倒での骨折をきっかけに、介護が必要になってしまったため、自宅に呼び寄せ、同居することにしました。
フルタイムの仕事をしながら、愚痴も言わずに、家事に介護に忙しい毎日を過ごしていたAさんでしたが、そんな矢先、ご主人のYさんが突然の交通事故で亡くなってしまいました。

ご主人には弟Bさんがいるものの、全く顔を出すこともなく、お義父さんと同居するつもりもないようです。Aさんはこの先もずっと、仕事をしながらお義父さんの介護を続けなくてはなりません…。

結果

実の娘ではないのに、亡き息子Yさんのお嫁さんとして、仕事をしながら家計を支え、自分の介護までしてくれているAさんに対して、お義父さんのXさんは日頃から大変感謝していました。ですが、このままでは万が一の時、相続人ではないお嫁さん(Aさん)に財産を残すことができません。そこでXさんは、遺産の半分をAさんに残すことを、Aさんと息子のBさんに伝え、遺言書を作成されました。

それから数か月後Xさんは亡くなり、Aさんは遺言どおりに遺産の半分の遺贈を受けることになりました。
今回のケースでは、しっかりと準備期間を設けることができ、遺言書が作成されたことで、唯一の相続人であるご主人の弟とも揉めることなく、手続きを終えることができました。

法改正により、相続人ではない人が介護をしていたとき、相続財産の一部を相続人に請求できる制度が新設されましたが、確実に相続財産を渡したいときは、Xさんのように生前に遺言書を作成することをお勧めします。

ポイント

特別の寄与の制度の創設

これまでの寄与分制度

相続人が複数の場合、その共同相続人の中で、被相続人の事業に関する労務の提供、財産上の給付、療養看護その他の方法により、被相続人の財産の減少を防いだり増加させたりした相続人がいるときは、共同相続人間の公平を図る為、その者に遺産の中から貢献した額を取得させる「寄与分」という制度があり、従来の旧民法においては、寄与分を主張することができるのは相続人に限られていました。

民法改正による特別の寄与分制度

民法改正により、相続人以外の者でも、被相続人の「親族」であれば、貢献に応じた額を請求することができることになりました。この場合の「親族」とは六親等内の血族、配偶者、三親等内の姻族をさし、「内縁の妻」や「同居人」、「親切なお隣さん」などからの請求は認められません。この「特別の寄与」を主張する者は相続人ではないため、遺産分割協議に参加するのではなく、相続人に対して金銭(特別寄与料)を請求することになります。

今回の事案で、Xさんの長男の妻であるAさんは、相続人とはなりませんが、一親等の姻族として親族となります。そのため、遺言がなかった場合でも、現民法においては「特別の寄与」として、貢献に応じた額を請求することが可能でした。また、特別寄与料は、当事者間の協議により決められますが、協議が調わない場合は家庭裁判所に対して処分を請求することができます。
ちなみに、療養看護に貢献した場合の評価は、一般的には、第三者が同様の療養看護を行った場合の日当額に療養看護日数を乗じたものに一定の裁量割合を乗じて算定されているようです。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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