事例

Xさんが亡くなったとして奥様であるAさんがご相談にいらっしゃいました。
Aさんは、ご主人のXさんと二人暮らしで、お二人の間にお子さんはいらっしゃいませんが、ご主人は再婚で、死別した前妻の連れ子であるBさんを養女にしており、相続人はAさんと養女のBさんとなります。
Aさんが結婚した時には、Bさんはすでに独立しており、やり取りはありますが、同居をしたことはないとのこと。Xさんは自筆で書かれた遺言書を残されていらっしゃいました。

結果

家庭裁判所で遺言の検認をすませ、AさんとBさんが2人で内容を確認したところ、「預金を2人で半分ずつ分けるように」という記載のみでした。

ところが、実際には、遺言で指定してある預金以外に、ご自宅・他の金融機関の預金・個人年金の受給の権利と・過去に購入していた上場株式・支払済の終身保険の保険金といった財産があることがわかりました。
預金以外の財産が判明したとなれば、Bさんとの遺産分割協議が必要となります。Aさんは「預金の額が少ないから、自宅を売却する必要があるかも…」と不安そうでした。

実際には、これらの財産をもとに2人で話し合った結果、自宅はAさんだけが相続し、その他の資産は納得の上、遺産分割することができました。Aさんは、「自宅は売却したくないと思っていたので良かった」と安堵されていました。
今回のようなケースで、民法改正により新設された「配偶者居住権」の制度が、住み慣れた自宅を売却せずに済む選択肢の一つとして役立つ制度になりそうです。

ポイント

配偶者居住権の新設

注意したい自宅不動産の相続

Xさんは、自宅は今住んでいるAさんが相続することは当然として、預金のことだけを遺言書に書かれたのかもしれません。しかし、自宅以外の財産が少ない場合でも、「不動産をAさんに」という旨があれば、Aさんは戸惑わずに自宅を相続し、Bさんは遺留分侵害額をAさんに請求することで、Aさんはこれまでどおり、住み慣れた家で安心して暮らすことができたのです。遺言を書く際には、すべての財産を網羅しておくことが、後々のトラブルを防ぎます。

配偶者居住権

一般的には、配偶者が死亡した場合、残された方は、住み慣れた自宅での居住を続けることを希望します。特に高齢者であれば、なおさら、新たな環境で生活を立ちあげることは容易ではありません。このような配偶者の居住する権利を保護すべく、民法改正により「配偶者居住権」という権利が創設されました。

この改正により、配偶者が相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた場合に、配偶者は遺産分割で配偶者居住権を取得することによって、終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができるものとするほか、被相続人が遺贈等によって配偶者に配偶者居住権を取得させることもできるものとしました。
法定相続分で遺産分割をする際に、自宅不動産以外の財産(預貯金等)が少ない場合などでは、配偶者が自宅の所有権を相続すると、預貯金等を十分に相続できないことになる為、住む場所は確保できても、今後の生活は不安定になるおそれがあります。そこで、配偶者が自宅の所有権を取得せずに、この配偶者居住権を取得すれば、終身又は一定期間住み続けることができ、配偶者居住権は所有権よりも低く評価されることになるため、多くの預貯金を相続できることになります。
 (この配偶者居住権は2020年4月1日より施行されます。)

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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