事例

以前、奥様の相続手続をお手伝いさせていただいたAさんから、久しぶりにご連絡をいただきました。
お仕事がいそがしく、家のことは全て奥様に任せきりでしたが、Aさんが定年退職をされた翌年、奥様は急な病で倒れ、わずか2週間の闘病の末に旅立たれてしまったのです。
突然に一家の司令塔を失い、大いに困ったAさんが、当センターをお訪ねになったのでした。奥様の遺産はご実家から相続した不動産の他、預貯金、株式や投資信託等多岐にわたり、全ての手続きを終えるのに半年近くを要しました。そんな経験からか、自らの終活に際し「自分の相続準備を手伝ってもらえないか。」とのことでした。

結果

まずは、Aさんの財産一覧を作成し、相続財産がいくらあるかを把握し、おおよその納税額を試算します。その上で、どのように相続させるのがいいのか、検討します。Aさんは相続が突然起きたときの残された家族の苦労を身に染みて経験しています。遺言書があることは、手続きがスムーズに進められる大きな利点です。

Aさんの本心は、自分が亡き後に長男長女が遺産相続で揉めることだけは何としても避けたいという思いでした。

そこで、Aさんは二人を実家に招集し、テーブルに財産一覧と試算表を広げ、なんと 「遺言書作成」のための協議をすることにしたのです。まず、Aさんが自身の思いを子供達に伝え、次にそれぞれの言い分を聞き、時間をかけて、全員が納得する遺言作成協議を議長として取り纏められたのです。そしてその協議通りの遺言書を作成されました。

さながら、それは「主役(被相続人)ありの遺産分割協議」のようでした。

Aさんは、「せっかく遺言書を作っても、内容が相続人同士で納得ができるものでなかったら、しこりは残ると思う。自分は全員の思いを酌んだ遺言書を作りたかった、今後も議長健在の限り、状況が変わればまた『協議』するよ」と穏やかにおっしゃいました。

ポイント

遺言のススメ

遺言書作成時の注意

相続(争族)対策として有効といわれる「遺言」ですが、Aさんが仰るように、「遺言書があれば万全」とも言い切れません。遺言者の独り善がりの遺言では、むしろトラブルの原因になりかねませんし、内容によっては、遺志通りに実現されない恐れもあります。可能であれば、財産を受ける方や遺言執行者として指定した方に、事前に説明し了承を得ておくことが望まれます。

自筆証書遺言保管制度

また、今年7月からは、自筆証書遺言(自筆で書く遺言書)を法務局で保管してくれる制度が始まります。自筆証書遺言は、手軽に作成できる反面、自宅で保管するため、紛失したり、隠匿・破棄・改ざん等されたりする恐れがありましたが、この新しい制度により、その恐れを未然に防ぐことが可能となります。ただ、遺言書を実現可能で不備のないものとするためには、専門家のアドバイスに基づいた公正証書遺言公証役場で作成する遺言書)を検討されることが望ましいと思います。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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