事例

以前にお母様の相続手続をお手伝いしたAさんご夫婦から、別件で相談したい、とご連絡をいただきました。

早速、お伺いしてAさんとそのご主人Bさんにお話をお聞きすると、Bさん曰く、「父が亡くなったら、すぐに実家の登記をしてほしい」とのこと。どういうことでしょうか?とお聞きすると、昨年の民法(相続編)改正にちなんだ新聞記事の特集を示して、次のようにお話をされました。

結果

「父は実家に一人で元気に暮らしているが、もし父が亡くなったら、その実家の不動産は長男である私が相続する

予定で、父もそれに同意している。ただ、そうはいいながらも、もし今後、父の気が変わって、子供以外の第三者に自宅不動産を遺贈するという内容の遺言を書かれてしまったら困る。この新聞記事によると、民法が変わって、不動産は遺言があっても登記を早くした者勝ちだとあるので、万が一に備えて、父が亡くなったら、すぐに登記をしてほしい。私には妹が一人いるが、妹は遺産はいらないと言っている。」ということでした。Bさんは、この自宅不動産をどう使おうか、既に算段していて、売るつもりなどは全くないようです。実際に遺贈する相手が想定されるわけではないようですが、お父様は交流関係が広く、念のために準備しておきたいということのようでした。

不動産の権利を取得した者は、登記をすることで、原則、その権利を「第三者」に主張することができますが今回のご相談のケースでは、Bさんは登記をしたとしても、受贈者(遺言で財産を受ける者)に権利を主張することはできません(いわゆる「対抗関係」にならない)。今般の民法改正が想定しているケースとも異なります。このあたりは民法の難しい話となるため、詳しい説明は避け、「そういう事情なら、お父様の意思を確認する意味でも、お父様が元気なうちに、Bさんに相続させるという遺言を書いてもらえばどうでしょう?」と提案しました。

ポイント

今般の民法改正(899条の2)
不動産の権利を相続により取得した者は、遺言による場合も、遺産分割による場合も、法定相続分を超える部分については、登記を備えなければ、第三者にその権利を主張することができないと定められました。

この改正が想定しているケース

例えば、支払いが滞っている債務者の親が亡くなり、債権者が遺産不動産の法定相続分を差押えたというケースが考えられます。従来は、債務者以外の他の相続人に不動産全部を相続させるという遺言書があれば、債権者は対抗できませんでしたが、改正により、仮に遺言があっても、法定相続分を超える分については、先に登記した債権者が優先することになります。 登記をしないことで予期せぬ事態が生じうることがないよう、相続が生じた場合は、早い段階で相続登記をすることが望まれます。

なお、今回のBさんの立場で仮に第三者に遺贈するという遺言があった場合、遺言者の相続人として遺言で財産を受ける受遺者との関係では「当事者」となるため、そもそも登記の有無が問題とならず、登記を先にしても受遺者に対抗できません。

執筆者情報

事例発行元:相続手続支援センター事例研究会

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