「現場は危ないので相談員にして欲しい」という職員

 特別養護老人ホームA苑では、4月7日の厚生労働省からの事務連絡(※)に基づいて「基礎疾患を持つ職員に対しては業務上の配慮を検討するので、希望者は申し出るように」と職員に通知しました。その後、A苑の所在するS県では感染者が増えなかったこともあり、職員から業務上の配慮の要請はありませんでした。ところが、7月に入り第2波が到来し、S県でも過去最高の感染者数を記録したため職員が動揺し始めました。

 ある日、30代の介護職員から「私は喘息があり新型コロナウイルス感染症に感染すると重症化する恐れがあるので、今すぐ介護現場を外して相談員にして欲しい」と施設長に申し出がありました。施設長は、基礎疾患のある職員への感染対策に関わる業務上の配慮を具体的に想定していなかったため、どのように対応して良いか困ってしまいました。

※ 社会福祉施設等における感染拡大防止のための留意点について(その2)

感染防止に対する職員への労働安全衛生上の配慮

どのように配慮したら良いのか?

 4月7日の厚生労働省の事務連絡には、「職員のうち、基礎疾患を有する者及び妊婦等は、感染した際に重篤化するおそれが高いため、勤務上の配慮を行うこと」と記載されています。新型コロナウイルス感染症に限らず、労働安全衛生法においても、労働者が現疾患や既往症などによって、業務上特別な危険がある場合には個別の配慮が必要となります。しかし、どのような疾患にどのような業務上の危険が存在し、どの程度まで危険回避の配慮をしなくてはいけないのかまでは、明文化されている訳ではありません。また、職員に対する周知徹底方法も明確ではありませんので検討してみましょう。

感染症対策上における配慮の内容

 まず、厚生労働省の事務連絡では、「利用者に濃厚接触者等感染が疑われる者が出た場合に配慮を行う」としていますから、感染者や感染が疑われる者が出ていない時点では配慮の必要はありません。

そうなると、本事例の「介護現場を外して相談員にして欲しい」という職員の要請に応える必要はないのです。では、どのような配慮が必要かが問題になりますが、感染者や感染が疑われる者が一人でもあれば、別の職場で業務を行う必要がありますし、クラスターが発生すれば施設への出勤にも大きな感染リスクが伴うため、しばらく休職しなければならないでしょう。

どのような基礎疾患が重症化するのか?

 さて、もう1つ大切なことは、どのような基礎疾患を持つ人が新型コロナ感染症に感染した時に重症化するリスクが高いのでしょうか?喘息はリスクが高いのでしょうか?4月18日のデータですが、喘息の持病がある人は無い人に比べて、7倍の致死率と発表されています。これを見ると、かなり高いことが分かります。このような基礎疾患のリスクについて、職員は十分な知識を持っていないため、リスクについての正確な情報を伝えた上で、配慮の具体的な内容も通知する必要があります。

感染症対策上の業務上の配慮についての職員向け通知文(例)を添付していますのでご参考にしてください

感染症対策上の業務上の配慮についての職員向け通知文(例)

職員のみなさまへ

特別養護老人ホーム〇〇苑
施設長 〇〇××

新型コロナウイルスの感染対策における
基礎疾患を持つ職員への業務上の配慮について

一旦収束するかのように見えた新型コロナウイルス感染症ですが、7月以降も感染者数が増減をくりかえし、当〇〇苑においても感染発生の危険が高まっています。み
なさまもご存じのように、新型コロナウイルス感染症は無症状や軽症者が多い一方で、高齢者や基礎疾患を持つ患者は重症化し生命の危険に直結します。
そこで、当〇〇苑では基礎疾患を持つ職員のうち新型コロナウイルスの感染時に重症化リスクの高い職員に対して、業務上の安全のために一定の配慮を行います。

■業務上の配慮の対象とする基礎疾患

新型コロナウイルスの感染によって重症化するリスクが高いとされる、次の基礎疾患を持つ職員を対象とします。
〇心疾患(先天性心疾患の他不整脈、虚血性心疾患、心臓弁膜症など)
〇血管疾患(動脈硬化症、大動脈瘤など)
〇糖尿病 〇呼吸器疾患(喘息など) 〇高血圧症 〇癌(抗がん剤治療など)
※その他、主治医などから注意がある場合などはご相談下さい。

■業務上の配慮を行うケース
・利用者または職員が濃厚接触者になるなど感染が疑われた場合
・利用者または職員の感染が判明した場合

■業務上の配慮の内容
・感染者または感染が疑われる者が発生した場合、異なる職場への配置転換を認めます。
・施設内に複数の感染者が発生した場合は、希望すれば休業を認めます。
・いずれも施設内に感染者または感染が疑われる者が居なくなった場合に終了します。
※その他の感染のリスクが高くなるような場合にも、申し出があれば検討します。

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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