認知症の母の写真が公開されている

Nさん(91歳・女性)は認知症が重い特別養護老人ホームの入所者です。コロナ禍により昨年3月からほとんど面会ができなくなった娘さんから、オンライン面会の要望がありましたが、施設は職員不足で手が回らないという理由でお断りをしました。第3波が終息した3月初旬、娘さんが面会再開の予定を尋ねたところ、対応した事務員から「利用者様の様子はツイッターでご覧ください」と言われました。施設名で検索したところ、Nさんの顔がアップになった画像が目に入りました。娘さんは、「すぐに母の写真を削除して」と施設へ話し、あわせて「個人情報の漏洩である」として市に苦情申し立てをしました。申立書には「認知症の母の写真が全世界に配信され、とても不愉快だ」とありました。

公開を限定しないSNSでは世界中に情報が配信される

知的なハンディがある方の個人情報

ツイッターは配信を非公開に設定にしなければ、娘さんが言う通り、全世界に情報が配信されてしまいます。認知症の利用者の顔写真を公開設定でツイッターにアップすることは、個人情報の漏洩であると同時に、知的ハンディがある人のセンシティブ情報拡散にもつながり、重大な人権侵害になります。

 過去には、知的障がい者施設のホームページに無断で利用者の顔写真を掲載し、賠償訴訟になったこともあります。利用者の父親は「うちの子が知的障がいであるという情報が全世界に配信された」と訴えたのです。知的なハンディがある方の個人情報の漏洩は、重大な人権侵害と捉えられるのです。また、漏洩される情報が広範囲であれば、さらに人権侵害は重大になる可能性があります。SNSによる広範囲の情報漏洩は、施設の広報誌に無断で写真を掲載するのとは訳が違うのです。そもそも、情報を公開しなくても人の容姿を無断で撮影するだけで人権侵害になるとも判断されることもあり、この事業者の人権意識は福祉事業者として配慮が欠けていたと言わざるを得ません。

利用者の動画を家族だけに配信する方法

新型コロナ感染症対策で面会が中止になっている期間、多くの施設ではオンライン面会や窓越し面会を行って、少しでも利用者の様子を家族に伝える努力をしてきました。しかし、オンライン面会は家族側に接続機器の環境があるとは限りませんし、窓越し面会も少しさみしいと感じるかたもいらっしゃいます。では、利用者の様子をどのように家族に知らせたら良いのでしょうか?

 ある社会福祉法人では、毎月の請求書に利用者の写真を添えた手紙を同封していましたが、新たに「ビデオレターを送る取組」を始めました。写真・動画の管理アプリケーションを使って、利用者の動画を家族のスマートフォンに配信する方法です。スマホを持っていればアプリをインストールしなくても、簡単に動画が見られるので高齢の家族でも操作でき大変喜ばれています。タブレットで3分間ほど利用者の動画を撮影し、施設のPCに収め、家族のメールアドレスにURLを送る仕組みです。取り組んでみたいという施設のみなさま向けに、配信方法のマニュアルを作りましたのでご参考にしてください。 

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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