「事務作業ミスを防ぐ」だけで良いのか?

 ある特養で事務作業ミスによる事故が立て続けに起きました。Aさんの家族に送る書類を誤ってBさんの家族に郵送してしまい、Aさんの家族から施設長が謝罪を求められました。その翌月には、相談員が包括支援センターに利用者に関する書類をFAXする際に番号を間違え、見ず知らずの人に送信してしまいました。この事故は、個人情報漏洩事故として市に事故報告をしました。度重なる重大ミスに対して施設長は、「事務作業でもミスがあれば外部に迷惑をかけるので、ミスをしないように個々人が注意深く慎重に行うように」と注意を促しました。さて、職員が個々に注意すれば本当にミスは防げるのでしょうか?

FAXの誤送信を事故と考えると原因と対策がわかる

「ミスによって事故が起こる」と考える

施設長の言う「ミスを防ぐ」という防止策は”ミス”と”事故”と”損害”を「事務作業ミス」と一体的に捉えているので、個人がミスを防ぐ対策のみに終始してしまうのではないでしょうか。ヒューマンエラーによる事故の防止対策においては、「ミス」「事故」「損害」を分けて考え、「ミスによって事故が起こり、事故の結果損害が発生する」という考え方をします。
 「FAX番号を間違えて送信する」という事務作業ミスによって、「個人情報の漏洩」という事故が起こり、「謝罪や組織の信用低下」という損害が起こったのです。このようにミス→事故→損害と分けて考えることによって、「ミス発生の防止対策」「ミスが事故につながらない対策」「事故が起きても損害を軽減する対策」というように3つの対策が考えられ、これらを個人の注意に頼らず組織的な仕組として対策を構築すれば良いのです。

FAX誤送信の防止対策は?

 ミスと事故と損害について対策を考えてみましょう。まず、ミスの発生を防ぐ対策です。FAX番号の入力を間違えたのは、職員が慌てていたことかもしれませんし、FAXの番号入力パネルが操作しにくかったのかもしれません。このような、ミスが発生する原因を考え、改善していくことによって、ミスの発生を抑制する対策を講じます。
 次にミスが事故につながらない仕組を作る対策です。多くの会社では、短縮ダイヤルを使用することを義務付けし、短縮ダイヤル登録時に二人の社員でチェックし、どうしても手入力で送信する際には、必ず複数職員で確認しながら送信する、というルールを決めています。
 最後に、事故が起きても損害につながらない(最小限に抑制する)対策です。まず、誤送信に早く気付いて書類を回収することが必要ですから、送信後のFAX番号チェックが重要です。最近では、FAX送付状に「本状に心当たりがない場合は、送信元にご一報いただきますようお願いします」と書いているFAXもあります。事故防止の仕組づくりができていない会社は、リスク対策を従業員の注意力だけに依存しているケースが見受けられますので、無防備な会社と言われてしまうかもしれません。

執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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