◆二人で「イッセイノセッ!」と持ち上げて落とした
Yさんは83歳の男性利用者で脳梗塞による半身麻痺があり、太り気味で、動くことを嫌がるので筋力低下が顕著になってきました。健側の足にも力が入らず体重も重いので、小柄で非力な介護職員は移乗介助などの時に、バランスを崩しそうになることもありました。ある時、介護職員がYさんをベッドから車椅子へ移乗しようとした時、バランス崩して転倒させてしまいました。幸いケガはありませんでしたが、家族に謝罪し、「お父様は体重が重く介助が大変なので、移乗は職員二人での介助に変えました」と説明しました。家族は「お手数をおかけして申し訳ありません」と恐縮し納得してくれました。ところが数日後に、二人の介護職員がベッド脇に並んで「イッセイノセッ!」とYさんの身体を持ち上げたところ、息が合わずYさんを転落させてしまいました。Yさんは腰を強打し骨盤を骨折する大ケガを負ってしまいました。家族は「二人で介助するから安全だと言ったのに、抱えあげて床に落とすなんて考えられない」と憤慨しました。また、事故状況の説明を受けた息子さんは、「二人で抱えて“イッセイノセッ!”なんて乱暴すぎる。重い石を持ち上げるんじゃないんだから。そんなことは素人だって分かる」と呆れ顔で言いました。
安全に二人介助を行うには綿密な介助動作連携が必要
◆まずは介助方法が適切か検証する
移乗介助中にふらつきなどがあり危険が生じると、すぐに「一人介助では無理」と言う職員がいますが、安易に「二人介助に変更」とせずに今やっている介助動作が本当に適切なのかを見直さなければなりません。移乗介助は単にモノを持ち上げて移動させる訳ではなく、利用者の自発的な移乗動作をサポートする介助であり、「自発的な移乗動作を適切にサポートしているか」を検証する必要があります。検証のポイントは3つです。1点目は「移乗動作が適切か?」、2点目は「介護職の介助方法が適切か?」3点目は「介助環境が適切か?」という検証です。

◆移乗動作を介助するにはどうしたら良いか?
次に、どうしてもYさんの移乗に二人介助が必要になったら、どのように介助したら良いでしょうか?半身麻痺利用者の移乗を介助するには、利用者に主体的に動作を行ってもらいこれを介護職員が介助しなければなりません。ところが、本事例の二人の職員は「体重が重いから身体を二人で持ち上げれば良い」と考えました。自発動作が無い人や意識の無い患者には、身体を持ち上げることは止むを得ませんが、そうであれば道具を使って安全に行わなければなりません。
体重が重いとはいえまだ動作能力があるYさんの移乗介助では、本人の残存能力を活かして動作を援助します。「重い石を持ち上げるんじゃないんだから」と呆れた息子さんの指摘が正しいのです。では、Yさんの主体的な動作を援助しながら二人の職員で安全に介助するためには、どのような方法が適切なのでしょうか?
◆二人は主と従の関係で連携する
二人の介護職員が勝手に移乗を介助することは不可能であり、二人は主と従の関係で介助動作を考えなければなりません。すなわち一人の介護職員が主体的にYさんを介助し、もう一人の介護職員がこれを補助するという役割分担になります。この主と従の関係で連携して介助するためには、誰がどこの部分を持ってどのように動くかを綿密に打ち合わせなければ失敗する可能性があり、一人で介助するより難しいといえるかもしれません。たとえ二人で介助しても、バランスを崩した利用者を支えるのは容易ではありませんから、介助バーにつかまってもらいながら動作してもらうなど、動作環境のサポートも必要でしょう。
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