■何度も呼んだが応答が無く留守だと思った
 Hさんは、10年以上市内で福祉用具事業者を営んでいます。8月のある日、ケアマネジャーから「Mさんのベッドのギャッジで音が出るので見て欲しい」と依頼を受けて、居宅を訪問しました。Mさんは2年前にHさんが介護用ベッドを貸与した、独居の男性利用者で久しぶりの訪問となります。約束した午後1時にMさん宅を訪問し、チャイムを鳴らしましたが応答がありません。大きな声で呼びかけましたが、やはり応答が無く「約束を忘れて出かけたのだろう」と考え、Hさんは次の訪問先に向かってしまいました。夕方仕事が終わり、気になって再度Mさん宅を訪問して声を掛けましたが応答がなかったため、その日はそのまま事業所に戻りました。
翌日午後、Hさんはケアマネジャーに連絡を入れ、「依頼を受けてMさんを訪問したが会えなかった」と報告しました。ケアマネジャーが息子さんに連絡を入れて一緒に訪問すると、Hさんは玄関で倒れていて亡くなっていました。エアコンは点いていましたが、極度の脱水症状で亡くなったことが分かりました。息子さんは、「法的な責任は無くても道義的な責任は重い」と市に苦情を申し立てました。

訪問時利用者の所在不明の場合の対応とは?

■介護事業者としての道義的責任は重い

HさんがMさんの居宅を訪問した時に、所在不明であるのに安否確認をしなかったことと、Mさんが亡くなったことの因果関係を立証するのは困難です。そうなると、Hさんに法的責任は発生しない可能性が高いでしょう。

しかし、介護事業者が独居の利用者を訪問した時に、所在が不明であれば確認するのは事業者の配慮としては当然であり道義的責任は免れられないと考えます。実際に、Hさんはこの事件を契機にケアマネジャーからの信用を失い、事業の継続ができなくなってしまいました。

■訪問介護やデイでも同じケースが起きている

福祉用具事業者は、利用者の居宅に反復して訪問する訳ではありませんし、頻繁に連絡を入れる訳でもありません。ケアマネジャーの依頼で貸与先に訪問するのが主な仕事です。そうなると、訪問した時に、利用者の所在が不明な場合の安否確認も慣れていなかったのかもしれません。しかし本事例と同様のケースは、訪問介護のヘルパー訪問時やデイサービスの送迎時にも起きています。在宅利用者の訪問時に所在不明の場合の対応は、全ての介護事業者が適切に行う必要があります。ある訪問介護事業者のマニュアルをご紹介しますので、参考にしてください。

《ある訪問介護事業者のマニュアル》
所在確認作業
①外から居宅内の様子を伺い「○○さん」と声をかけてみる。近所の方が出てこられたら様子を聞いてみる。
②勝手口などが開いていれば、中に入り利用者の様子を見る。
③利用者の様子が判明しないときは、事業所のサービス提供責任者などに連絡を取り、利用者が外出している可能性やサービス中止の連絡ミスなどがないか確認する。
④事業所側ではケアマネジャーや緊急連絡先の親族などに確認を入れる。
⑤以上の確認作業で所在が不明な場合は、利用者に異変があったものと判断し対処をする。また、確認作業中に、居宅内に倒れている利用者を確認した場合などは、その場で緊急対応に移る。
緊急対処(居宅内に入り安否確認)
①事業所に連絡し居宅内に入り安否確認をする旨伝える。
②事業所ではケアマネジャーや緊急連絡先の親族などに連絡し、居宅内に入り安否確認を行う旨伝える。
③できる限り交番の警官や民生委員など公的な第三者を呼び、一緒に居宅内に侵入します(決して独りで居宅内に侵入してはいけません)。異変があれば救急車や医師の手配などを協力して行います。
④緊急対処の結果を事業所に報告します。事業所ではケアマネジャーや親族に結果を報告します。

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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