「事故の責任を免れるためか!」と不信感を露わに 

ある時、特養の相談員Mさんがリスクマネジメント研修会に参加し、懇意にしている他の施設の相談員Sさんと隣の席になりました。Mさんは、「転倒や誤えんなど防げないような事故で家族トラブルになり困っている」と話しました。するとSさんから、「入所時に家族にも利用者のリスクを理解してもらうため、リスク説明書を取っている」と話がありました。
Mさんが施設に戻って施設長にこの話をすると、「先日も自立歩行の利用者の転倒事故でトラブルになった。これはいい取組だ」と、早速新規入所のKさんの家族にリスクを説明し、署名捺印してもらうことにしました。
2週間後にKさんが転倒して骨折したため、家族にリスク説明書を見せて「お母様に転倒のリスクがあることは事前にご説明した通りで、今回の転倒事故は不可抗力です」と話しました。すると息子さんは「転倒のリスクがあるという説明は受けたがそれがなんだ。印鑑を押させたのは事故の責任を免れるためだったのか!」と不信感を露わにして、市に苦情申立をしました。

防げない事故のリスクを家族に説明するには?

賠償責任を免れる条項は無効

防げない事故について家族に説明して理解を得ることは、リスクマネジメントの活動の中でも大変重要な取り組みです。では、どのように説明して家族に理解してもらったら良いのでしょうか?本事例のように防げない事故を列挙して、書面で説明し「防げない事故委ついて納得しました」と署名捺印をもらうのは、適切な方法とは言えません。
なぜなら、消費者契約法によって、事業者と消費者との契約において事業者の賠償責任を免れる条項は無効とされていますし、このような約定をさせること自体が消費者軽視になるからです。では、どのように説明して家族の理解を得れば良いのでしょうか?

リスクを伝えるにはコツがある

家族に防げない事故について説明して理解を得るには、次のようにコツが2つあります。①リスクだけを説明しても家族は聞く耳をもってくれないので、必ず防止対策もセットで説明する。②事故を防ぐためには家族の協力が必要であることを具体的に説明する。
 例えば、歩行に危険がある利用者が独りでトイレに行ってしまうのであれば、次のように説明します。
「お母様は独りで歩行されると転倒の危険がありますので、トイレに行くときには職員に声をかけていただくようお願いしています」と。続いて転倒を防ぐために家族に協力を依頼します。「トイレに行く時には、遠慮せずに職員に声をかけるようにご家族からもお話しして下さい」と。
 このような内容のチラシ(※別紙)を作り、入所前に家族に説明すると大変効果的です。

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執筆者情報

監修 株式会社安全な介護 山田 滋 

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